2017年度前期 第4回 細胞生物学セミナー

日時:66日(火)1700〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Use of a SPAD-502 meter to measure leaf chlorophyll concentration in Arabidopsis thaliana

Ling,Q., Huang,W., Jarvis,P. (2011)

Photosynth Res.107:209–214

シロイヌナズナにおける葉のクロロフィル濃度を測定するためのSPAD-502メーターの使用

 

 SPAD-502メーターは手に持てる大きさの、速く正確で非破壊的な、葉におけるクロロフィル濃度の測定装置である。SPAD-502メーターは異なる植物種にわたり、研究と農学の応用の両方で広範に利用されているが、植物科学のモデル生物のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana L.)においてはまだ十分に活用されていない。クロロフィル濃度の測定は、アセトンやジメチルホルムアミドのような有機溶媒を使って色素を抽出した後で、分光光度計を用いて測定することが一般的である。この方法は正確である一方で、破壊的である。SPAD-502メーターを用いれば非破壊的に測定することができる。本研究ではシロイヌナズナを用いて、葉面積あたり、あるいは生重量あたりのどちらかを基にした、SPAD値を正確にクロロフィル濃度の値の絶対値に変換するために使うことができる較正式を導き出した。

 植物材料にはシロイヌナズナのColumbia-0株を用いた。SPADメーターの読み取り値と、クロロフィル含有量の間の相関を導き出すために、多様な異なる色素沈着レベルを持つ植物を調査する必要がある。そのため、色素の中へのタンパク質輸送に欠陥のある葉緑体発生変異体+/tic110-1hsp93-V-1tic40-4 ppi1-1hsp93-V-1 hsp93-III-1 (hsp93-V/III)を用いた。MS培地で発芽させ、10日間生育させた後に土壌に移すか、直接土壌に種をまいた。長日周期(16-h-light/8-h-dark)の下、約100µmol/m2/sの白色光下で生育させた。すべての植物においてSPADメーターでの測定を行った後、同じ葉からの、ジメチルホルムアミドによる色素抽出液から分光光度計を用いて測定値を出し、それらの2つのデータセットを互いにプロットすることにより相関を導き出した。先行研究では、SPAD値とクロロフィル濃度の間の一次関数、または指数関数相関が提唱されており、それらのR2値は、葉面積あたりのデータではそれぞれ0.9790.973、生重量あたりのデータでは0.9590.972となった。今回導き出した二次多項式関数のR2値は、面積あたりと生重量あたりのデータではそれぞれ0.99600.9809となり、より強く適合していることが観察された。

導き出した較正式の有用性を検証するため、暗誘導の老化を示す植物のクロロフィル変化を調べた。老化誘導のための暗処理は2つの異なる方法を用いて行った。野生型に加え、さらなるコントロールとして老化欠損変異体であるpheophytinasePPH)の変異体pphpheide a oxygenasePAO)の変異体pao1を調べた。しかし、pao1変異体は緑色と黄色のセクターが斑状の見かけをしていたため、不適切と判断し、野生型とpphのみに注目した。暗処理とコントロール(無処理)の葉で、SPADメーターの読み取り値と色素抽出を使った光度計による測定値の両方を測定し、SPADのデータは較正式を用いてクロロフィルの値に変換して比較した。その結果2つのデータセットはとても類似しており、それは較正式が異なる条件下でのクロロフィルの測定に適していることを示している。最後に、光ストレスを与えた植物を分析した。光ストレス処理では、非ストレス条件下で生育させた21日齢の植物を高強度の白色光に13時間で7日間曝し、その後、非ストレス条件に24時間戻してから測定を行った。高光度での露光に順化していない植物では、光合成器官の著しい損傷と光合成色素の随伴性の欠乏を引き起こす。予想通り、光ストレスを受けた植物はコントロール植物よりも色が薄くみえ、成長が妨げられていた。SPADの値を較正式により変換して求めたクロロフィルの値と、抽出された色素の分光光度計による測定値の類似が比較によりわかり、較正式の適合性が確認できた。

 全てのデータを考慮すると、SPADメーターを使って決定された値は、従来の抽出法によって取得したデータと平均して約6%異なっていたが、これは容認できる誤差の余地であると結論付けられた。

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください。  窪田るりの