2017年度前期 第7回 細胞生物学セミナー

日時:711日(火)14:30〜  場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

An NADPH oxidase RBOH functions in rice roots during lysigenous aerenchyma formation

under oxygen-deficient conditions

Yamauchi,T., Yoshioka, M., Fukuzawa, A., Mori, H., K.Nishizawa, N., Tsutsumi, N.,

Yoshioka, H., and Nakazono, M.2017

Plant Cell 29:775-790

 

酸素欠乏性条件下での破性通気組織形成中のイネの根におけるNADPHオキシダーゼRBOHの機能

 

 植物における酸素の内部輸送は拡散によって支配され、能動的な分散機構は持っていない。イネ科植物は、湛水土壌に適応するために根においてエチレンが蓄積し、皮層細胞のプログラム細胞死と溶解によって破性通気組織が生じる。また、活性酸素種(ROS)は植物の多様な生物学的過程におけるシグナル伝達のトリガーとなっており、イネ科植物の破性通気組織形成の誘導にはROSが必須となっている。ROSを産生するNADPHオキシダーゼ(RBOH)のうち何種類かはCa依存性タンパク質リン酸化酵素(CDPK)を介して直接活性化される。トウモロコシの根において、Ca2+流入阻害剤処理により通気組織形成が阻害されたことが報告されており、RBOHCa2+依存的活性化が通気組織形成を制御していると考えられる。本研究では、イネの根における通気組織形成に関与しているRBOH遺伝子の同定および通気組織形成を制御しているROSCa2+シグナル伝達の分子機構を理解するために以下の実験を行った。

 実験材料に10日齢の好気的に生育させたイネ(‘Shiokari’)を使用して、誘導的な通気組織形成中に高発現するRBOH遺伝子を同定するために、好気または湛水土壌環境を再現した嫌気処理条件下(各処理条件)で36時間生育し、不定根の根端から10 mmの位置におけるイネの9種類のRBOH遺伝子の転写レベルを絶対定量したところ、RBOHARBOHHが高発現した。レイザーマイクロダイセクション法(LM法)を用いて不定根の根端から10 mmの位置より得た横断切片を中心柱・皮層・外側部の3箇所に分けてRBOHARBOHHの発現の組織特異性を調べたところ、処理開始から36時間後に外側部でRBOHAが、皮層でRBOHHが高発現した。RBOH仲介性のROS産生が通気組織形成に関与しているか調べるために、各処理条件下で36時間処理し、不定根の525 mmの部位のH2O2含有量を測定したところ、好気条件下では一定であったが、嫌気条件下では24時間後にH2O2含有量が増加し、36時間後にピークに達した。各処理条件下でROS産生の阻害剤であるDPIとアポプラストを介したサイトゾルへのCa2+流入を阻害するEGTA、細胞小器官からサイトゾルへのCa2+遊離阻害剤であるruthenium redで処理し不定根の根端から10 mmの位置より横断切片を得たところ、いずれの薬剤処理でも未処理のものと比べて通気組織形成が抑制されていたため、ROSCa2+が通気組織形成に関与していることが示唆された。さらに、各処理条件下で36時間生育させた不定根の根端から10 mmの位置でのイネの11種類のCDPK遺伝子の発現を調べたところ、脱酸素条件でCDPK5,7,10,13が高発現していた。LM法を用いて発現の組織特異性を調べたところ、皮層においてCDPK5,13が有意に増加し、外側部においてCDPK7,10が有意に増加した。この結果からCDPK5,13の発現が通気組織形成に最も密接に付随していることが示唆された。RBOH仲介性のROS産生に対するエチレンの効果を調べるために、各処理条件下でエチレン受容阻害剤である1-MCPを処理したところ、脱酸素条件下での通気組織形成とRBOHHの発現が抑制された。最後に、RBOHHを標的としたRBOHH-CRISPR/Cas9RHC)遺伝子導入によりRBOHHの機能を欠損させた系統では嫌気条件下での不定根における通気組織形成とH2O2含有量が有意に減少していた。

 以上よりイネの根においては、エチレン誘発によるRBOH仲介性のROS産生によって破性通気組織形成が制御されていることが分かり、ROS産生はCDPK5またはCDPK13によるRBOHHの自己活性化により仲介されている可能性が示された。     興味を持たれた方は是非ご参加下さい。  北平佑貴