2018前期 第11回 細胞生物学セミナー

日時:710日(火)17:00~ 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

FRET-based reporters for the direct visualization of abscisic acid concentration changes and distribution

 in Arabidopsis

Waadt, R., Hitomi, K., Nishimura1, N., Hitomi, C., Adams,S.R., Getzoff,E.D.,Schroeder,J.I.(2014)

eLife 3: e01739.

シロイヌナズナにおけるアブシシン酸の濃度変化と分布のFRETを用いた蛍光レポーターによる直接の可視化

 

 アブシシン酸(ABA)は植物の成長と発達を調節し非生物学的ストレスへの反応を媒介する植物ホルモンである.アブシシン酸の動きを理解するためには直接,環境刺激に反応中の細胞において変動するアブシシン酸の濃度変化を観察することが必要である.我々はアブシシン酸特異的なオプトジェネティクスレポーターとして,ABAレセプターとPP2C型ホスファターゼとの相互作用によりABAに応答して蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)シグナルを発するABAleonsを開発した.ABA濃度が100~600Mの範囲で親和性を持ち,植物細胞中のABA濃度変化を,空間及び時間分解能を持たせてマッピングすることができるABAleonsの設計,作成および使用について報告する.

 可逆的にABAに結合できるセンサーとして,PYR1と改変したPP2C型ホスファターゼABI1をリンカーでつなぎ,これを異なる波長の蛍光を発するタンパク質mTurquoisecpVenus1732つのタグからなるFRETカセットに融合させて,ABAleon1.1というFRETベースのレポーターを設計し,シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana,Col0)に組み込んだ.しかしこのリンカーが柔軟で長いためABAが結合していない時にもABI1がホスファターゼ活性を持つ恐れがある為,突然変異を導入しホスファターゼ活性を失わせたABAleon2.1を作成しこれを主に用いた.mTurquoiseにだけ吸収される440 nmの蛍光を植物に当てると,センサーがアブシシン酸に結合している場合にはmTurquoiseからの476 nmの蛍光を,アブシシン酸に結合していない場合には両タグが接近できるためFRETが起こりcpVenus173からの527 nmの蛍光をより多く発するため,2つの波長の蛍光強度比の測定により細胞中のABA濃度変化を判断できた.シロイヌナズナ実生におけるABA濃度分布をABAleonの蛍光マップとして可視化したところ,ABA非処理でも孔辺細胞や根でシグナルが見られ,同じ実生に50 mΜ ABA処理すると,孔辺細胞,根の伸長領域や胚軸基部での時間に伴うABA濃度増加が1時間以内に確認され,胚軸では求頂的な輸送が行われていることも示唆された.さらにシロイヌナズナの実生を粘度で隔てて上部と下部に隔離し,それぞれにABA処理して,長距離の輸送を調べた.ABAを上部に適用した結果,下部でのABA濃度増加がみられ,ABAのシュートおよび胚軸から根への輸送が確認されたが,逆方向への輸送は起こらなかった.また容器を開放することで低湿度に曝した場合は孔辺細胞において,また100 mM NaClによる塩ストレス,300 mM sorbitolによる浸透圧ストレス処理により,孔辺細胞や根の成熟域および伸長域でABAが処理された場合と同様の発光比変化が確認されたことから,ABAleonsがストレスによる内在性のABA濃度変化観察でも有用であることが示された.

 またABAleonsにおいてABA結合部位であるPYR1のアミノ酸配列を改変し,天然および人工のABAの光学異性体に対する親和性を調べた結果,PYR1H115が異性体の識別において重要な機能を果たすことが示唆された.また改変されたPYR1H60Pを有するABAleons2.11ABAに応答せず,ABA非存在下でABAと結合したABAleons 2.1に匹敵する発光比を示したことから,PYR1H60P ABA非存在下でPP2Csと相互作用を形成したと考えられる.ABAに対する解離定数が高く低親和性のABAleonの中でも,ダイナミックレンジの大きいABAleon2.15は根で有効であり,高親和性のABAleon2.1と共に用いることで,幅広い組織の反応をモニターできると考えられる.本研究においてABAleonsABAシグナリングにある程度影響を及ぼすが,多様な組織及び細胞タイプにおけるABA濃度の変化を分析し,生体内でのABA輸送を調べることができることが示唆された.

興味を持たれた方は是非ご参加ください 内山 直樹