2017年度前期　第2回　細胞生物学セミナー

日時：5月16日（火）17：00～　場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

SND1, a NAC domain transcription factor, is a key regulator

of secondary wall synthesis in fibers of Arabidopsis

Zhong, R., Demura, T., Zheng, H. Y. (2006)

Plant Cell, 18: 3158–3170

NAC領域の転写因子であるSND1は、シロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana L.）の

繊維における二次壁の合成の重要な制御因子である

　　二次壁は木部の主要な構成成分であり、植物によって生産されたバイオマスの大半を占める。二次壁は主にセルロースとリグニンとヘミセルロースで構成され、二次壁形成の間これらの二次壁成分の生合成は高度に協調している。近年、二次壁の生合成に関与する遺伝子の多くが明らかにされてきたにもかかわらず、これらの遺伝子の協調的な発現の根底にある分子機構についてはほとんどわかっていない。双子葉植物種の木部の中でも二次壁を最も多く含んでいる細胞は繊維であり、繊維での二次壁の生合成を制御している転写制御因子を明らかにする必要がある。そこで本研究では、シロイヌナズナの繊維での二次壁の生合成に対する、NACドメイン転写制御因子であるSND1 (secondary wall–associated NAC domain protein 1) の役割を明らかにすることを目的とした。

　筆者らはまず、維管束間繊維細胞で高発現している転写制御因子を探索し、花茎の維管束間繊維と木部細胞でのみ高発現していたAt1g32770を発見しSND1と名付けた。次に、SND1にGUSレポーター遺伝子を結合させた形質転換体を用いてSND1の発達過程での発現パターンを調べた結果、GUSの染色は花茎の維管束間繊維と木部繊維で二次壁の合成前から合成完了まで観察され、導管では見られず、発達後期の花茎の維管束間繊維では著しく減少していたことから、SND1が花茎の繊維で特異的に発現し繊維の二次壁の肥厚に関与していることが示された。次に、SND1をEAR (Ethylene-responsive element binding factor-associated amphiphilic repression) 転写抑制ドメインと結合させたSND1抑制株を調べた結果、繊維の細胞壁の厚さは著しく減少していたが、導管壁にはほとんど影響がなく、繊維細胞の長さも変化しなかったことから、SND1は繊維の二次壁の生合成に関与する転写活性化因子である可能性が示された。SND1の過剰発現が二次壁の生合成を誘発するのかどうかを調べた結果、SND1過剰発現株の葉や花器官の柔組織細胞や花序柄の表皮細胞といった、本来は厚壁細胞ではない細胞で異所的な二次壁の沈着がみられたが、維管束間繊維および木部繊維の細胞壁は極端に薄くなっていた。このことは、SND1が規定の量だけ存在することが、繊維での正常な二次壁の沈着が行われるために重要であることを示すとともに、SND1の発現は繊維以外の細胞において二次壁の生合成を誘導できることが示された。また、定量的PCRを行った結果、SND1過剰発現株の実生において全ての二次壁生合成関連遺伝子の有意な発現増加があったことから、SND1の発現が全ての二次壁生合成関連遺伝子を活性化できる可能性があることが示された。さらに、植物の管状要素では二次壁の肥厚の後でプログラム細胞死が起こるため、SND1の過剰発現がプログラム細胞死を引き起こすかどうかを調べた結果，木部分化の際のプログラム細胞死関連遺伝子の発現は、SND1の過剰発現によって誘導されなかった。また、SND1過剰発現株の葉は、大量の二次壁が沈着しながらも白化していなかったことから、SND1はプログラム細胞死を誘導しない経路によって二次壁形成を特異的に活性化することが示された。また、リグニン生合成経路の遺伝子がMYB転写制御因子によって制御されていることから、SND1とは別の転写制御因子が二次壁のそれぞれの構成成分の生合成関連遺伝子の発現を調節し、SND1はこれらの転写制御因子の発現を調節している重要な制御因子であるという仮説を筆者らは立て、この仮説を検証するために、繊維における二次壁の生合成の間高発現しているいくつかの転写制御因子の発現解析を行った。その結果、2つのNAC遺伝子と3つのMYB遺伝子と1つのホメオボックス遺伝子の発現が、SND1過剰発現株の実生において有意に大きく誘導された。この結果は筆者らの仮説を支持するものである。　　　　　　　　　

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　　篠笥公隆