2025年度前期 第14回 細胞生物学セミナー

日時:729()1630~ 場所:Teams

Transcription factor OsWRKY72 controls rice leaf angle by regulating LAZY1-mediated shoot gravitropism

Liu, L., Zhao, L., Liu, Y., Zhu, Y., Chen, S., Yang, L., Li, X., Chen, W., Xu, Z., Xu, P., Wang, H., Yu, D. (2024)

Plant Physiol., 195 : 1586-1600.

転写因子OsWRKY72LAZY1を介したシュートの重力屈性を制御することによって

イネの葉身角度を調節する

 

植物において光合成を最適化するには,捕えた太陽光を効率よく利用することが重要であり,それは葉身角度の調節によって達成される.葉身角度は,最適な栽培密度と光の取り込みを促進し,最終的には生産量にも貢献することから,穀物において重要な農業形質とされている.この葉身角度は,葉身と葉鞘の間に存在するラミナジョイントによる葉の直立の維持と機械的支持によって決定される.近年の研究により,ラミナジョイントにおける発生過程の変化や重力屈性の変化が葉身角度に影響を与える可能性が示された.WRKY転写因子は植物の成長や発達,ストレス耐性に関わることが知られており,先行研究ではシロイヌナズナにおいてOsWRKY72の過剰発現により,側枝の増加,半矮性,早咲きといった表現型が確認された.本研究では,野生型イネの定量的RT-qPCR解析から,OsWRKY72は主にラミナジョイントで発現することが明らかになった.そこでOsWRKY72欠損変異体(oswrky72 )を作出し,野生型と形態を比較した結果,第2葉および第3葉の葉身角度は野生型よりも小さくなっていた.一方,OsWRKY72を過剰発現させた系統(OsWRKY72-OE )では,第2葉および第3葉の葉身角度が野生型よりも大きくなっていた.このことから,OsWRKY72がラミナジョイントで葉身角度を正に制御することが示唆された.さらに,野生型とoswrky72RNA-seq解析から,葉身角度に関わる複数の遺伝子の発現が変動していることが分かった.具体的には,葉身角度を正に制御する複数の遺伝子の発現がoswrky72で低下しており,LAZY1およびOsWAK11の発現は上昇していた.OsWRKY72-OEでは,LAZY1およびOsWAK11の発現レベルが低下していた.OsWRKY72の直接的な転写標的の同定の結果,LAZY1OsFTL12OsWAK11のプロモーター領域には少なくとも1つの顕著なOsWRKY72結合ピークが確認されたことから,これら3つの葉身角度関連遺伝子がOsWRKY72の直接の下流標的であることが分かった,さらにゲルシフトアッセイ(EMSA)により,OsWRKY72は直接的にLAZY1プロモーターに結合することが示された.これまでの知見から,LAZY1はオーキシンの極性輸送を制御し,イネシュートの重力屈性を調節し,それによって葉身角度を調節することが知られている.そこで,OsWRKY72による葉身角度の制御に重力屈性が関与しているかを調査した.その結果,oswrky72のシュートは野生型よりも強い重力屈性を示す一方で,OsWRKY72-OEは弱い重力屈性を示すことが分かった.また,重力刺激後の葉身角度は,対照群(重力刺激なし)と比較してoswrky72および野生型で有意に増加したが、OsWRKY72-OEでは有意な差はみられなかった.さらに,農業形質への影響を調べたところ,OsWRKY72-OE系統では,止葉角度,分げつ数,籾長は増加したが,草丈,止葉幅,穂長,二次枝梗数,籾幅,籾厚,1穂籾数が減少し,その結果,籾千粒重および1株あたりの収量が減少していた。一方,oswrky72は止葉角が小さく,草丈が高く,籾が長く幅広であり,籾千粒重が増加し1株あたりの収量が幾分増加した.以上の結果から,転写因子OsWRKY72LAZY1の発現を直接抑制することでイネシュートの重力屈性を阻害し,葉身角度の拡大に正に寄与していると考えられる.

 

興味を持たれた方は唐原先生または玉置先生にご連絡ください.TeamsURLをお伝えします.田端桂介