2025年度後期 第3回 細胞生物学セミナー
日時:10月21日(火)16:00~ 場所:Teams
Amyloplasts
are necessary for full gravitropism in thallus of Marchantia polymorpha
Hashimoto-Sugimoto, M., Norizuki, T., Segami, S., Ohta, Y., Suetsugu, N., Ueda, T., Morita, M.T. (2025)
J. Exp. Bot., https://doi.org/10.1093/jxb/eraf375
アミロプラストはゼニゴケ葉状体における完全な重力屈性に必要である
植物における重力屈性は,重力に応答して植物器官が特定の方向に発達または成長する現象であり,重力感知,シグナル形成,シグナル伝達,および応答器官の上部と下部組織における差次的成長という4つの連続したステップから成る.シロイヌナズナでは,デンプンを豊富に含むアミロプラストが,根と茎の両方で完全な重力屈性感受性に不可欠であることが示されている一方で,コケ植物においてデンプン顆粒が重力屈性シグナル因子として必要かどうかは依然として不明である.ゼニゴケ(Marchantia polymorpha L.)は,ゲノム情報が整備されており,分子遺伝学的解析ツールが利用可能なモデル植物種として確立されている.本研究では,ゼニゴケの葉状体の重力応答に着目し,デンプン顆粒が応答に果たす役割を理解するため,遺伝学的および生理学的解析を行った.
ゼニゴケの葉状体における重力応答を調べるため,光の影響を排除して暗所で葉状体を生育させたところ,葉状体から細長い構造体(以下「細長構造」と呼ぶ)が直線的に上方へ伸長していた.次に,細長構造が重力の方向に依存するかどうかを調べると,常に重力と反対方向へ直線的に伸長し,葉状体を90°回転させ重力刺激を与えると24時間後にすべての細長構造は上方へ曲がった.このように,細胞増殖に加えて細長構造の差次的成長が形態変化を引き起こしたことに加え,クリノスタット処理では方向性が失われたことから,ゼニゴケの伸長した葉状体における重力応答は負の重力屈性であると結論付けた.また,細長構造の重力屈性におけるデンプン顆粒の関与を調べるためにLugol染色を行った結果,細長構造のみが染色され,デンプン顆粒が元の葉状体には存在せず細長構造にのみ存在することが示された.染色は先端に近いほど強く,各細胞では重力側でより強い染色が観察され,染色された構造がデンプンを含むアミロプラストの沈降であることが示唆された.さらに,デンプンを含むアミロプラストを各細胞内で詳細に観察するためmPS-PI染色を行った結果,背側表皮では小さな細胞内顆粒が均一に検出され,これらは未発達のアミロプラストであると考えられた.一方,1層の表皮下に存在する柔組織性の貯蔵細胞では,より大きなアミロプラストが細胞底部に沈降していることがわかった.次に,これらのアミロプラストの再配置動態を90°回転による重力刺激下で調べたところ,アミロプラストの沈降は先端に比較的近い柔組織性細胞で起こっており,重力刺激後5分以内に移動が始まり,15分後には新しい重力ベクトルに沿った明確な沈降が認められた.このプロセスは先端近くの細胞で早く始まり,より遠位の細胞では長くかかることがわかった.重力刺激3時間後には先端近傍で完全な沈降が観察され,これは6時間後にみられる成長方向の再配向に先行していた.より遠位の領域では新しい重力方向への沈降は弱く,アミロプラストは小さく数も少なかった.これらの結果は,重力感受が主として先端下部領域で起こることを示唆している.さらに,ゼニゴケにおける重力感知にアミロプラストの沈降が必要かどうかを検証するために,アミロプラストを欠くMppgm1およびMpaps1欠損変異体を作出し,暗所で生育させた結果,細長構造が形成されたが,各変異体のものは野生型とは異なり,直立せず,らせん状あるいは屈曲していた.また,重力刺激下では,野生型が新しい重力方向に顕著に湾曲したのに対し,各変異体ではその程度が有意に低かった.これらの結果から,ゼニゴケの細長構造においてデンプンを含むアミロプラストが重力屈性応答に必要であることが明らかとなった.
これらの結果から,細長構造における柔組織性の貯蔵細胞が平衡細胞の候補であり,アミロプラストの沈降が屈曲開始前に起こることは,「デンプン平衡石仮説」と一致している.しかし,デンプン欠損変異体もある程度の重力応答を示し,最終的には上方に成長することから,ゼニゴケにはアミロプラスト非依存的な重力屈性経路が存在する可能性が示唆された.
興味を持たれた方は唐原先生または玉置先生にご連絡ください.TeamsのURLをお伝えします.田端桂介