2026 年度前期 第 1 回 細胞生物学セミナー
日時:4 月 15 日(水)16:30~ 場所:Teams
Spiral phyllotaxis in the moss Physcomitrium patens emerges from simple division rules of the apical cell
Cammarata, J., Strauss, S., Lane, B., Kelly-Bellow, R., Mancini, L.,
Vernoux, T., Coudert, Y., Roeder, A. H.K., Smith, R. S. (2026)
Curr. Biol., 36, 1180–1189
ヒメツリガネゴケにおける螺旋葉序は,頂端細胞の単純な分裂規則から生じる
葉序は茎の周囲における葉や花の配置パターンであり,自然界における代表的なパターン形成の例である.ヒマワリの頭状花序に見られる螺旋はフィボナッチ数列に対応し,このような配置は連続する原基間の分岐角が黄金角に近いことで生じる.被子植物では,分裂組織において古い原基が新しい原基の形成を抑制する間隔調節機構が存在し,オーキシンの極性輸送により原基形成位置が決定されると考えられている.この組織レベルの仕組みにより,多細胞のシュート頂端では螺旋葉序が形成される.一部のコケ植物,とくにヒメツリガネゴケの茎葉体では,シュート頂端は単一の四面体型頂端細胞から構成されるにもかかわらず,フィボナッチ型の螺旋葉序が形成される.この頂端細胞は非対称分裂を繰り返し,連続する分裂が回転することでphyllid(葉の相似器官)が螺旋状に配置されるが,分裂面がどのように一貫して回転するのかは明らかではなかった.一般に植物細胞の分裂は,重心を通る最小面積の細胞壁を形成するという最短壁規則に従うとされるが,正四面体の細胞であれば4つの等価な最短壁面が生じうるため,特定の分裂面の選択機構は説明できない.さらに,成長方向や機械的応力などが分裂面を決定するという別の仮説も提案されており,最短壁規則が常に成立するわけではないことも知られている.そこで本研究では,3次元タイムラプスライブイメージングと定量的細胞形状解析,さらにシミュレーションモデリングを組み合わせ,ヒメツリガネゴケの頂端細胞において分裂面がどのように安定して選択され,螺旋葉序が形成されるのかを明らかにすることを目的とした.
コケ頂端のライブイメージングにより,ヒメツリガネゴケの単一の頂端細胞は一定方向に回転する螺旋状の分裂を繰り返し,この回転分裂パターンが葉序形成に対応することが確認された.分裂角は平均126.9°であり,分裂は常に最も古い細胞壁を避ける方向に起こった.上方から見た頂端細胞形状に着目すると,完全な正三角形ではなく非対称であり,最も古い細胞壁に対して垂直方向にやや伸長した形状を示していた.しかし,長さ(伸長方向)/幅比や各細胞壁長には大きなばらつきが存在していたにもかかわらず,すべての頂端細胞で分裂面は一定方向に回転していた.このことから,細胞形状の非対称性だけでは分裂面の配向を説明できず,最短壁規則のみでは回転する分裂面を予測できないことが示された.また,タイムラプス解析から頂端細胞の成長はほぼ等方的で,明確な最大成長方向は認められなかったため,主成長方向に垂直に分裂するという規則でも分裂面の回転を説明できなかった.さらに3次元解析では,頂端細胞は四面体状で深さ方向により大きく伸長していることが明らかとなったが,重心を通る最小面積平面を計算すると,実際に観察された分裂面とは平均約27°ずれていた.したがって,3次元形状を考慮しても,重心を通る最小面積平面という最短壁規則のみでは分裂面の配向を予測できないことが確認された.一方,実際の分裂面は細胞重心から平均2.21 µmずれた位置を通っており,このずれた分裂点を通る最小面積平面は観察された分裂面とよく一致した.この結果を基に3次元シミュレーションを行ったところ,分裂面が最小面積平面に従い,外表面に対して垂直で,かつ分裂点が最も古い2つの細胞壁から遠ざかる方向にずれるという規則を組み合わせることで,実験値に近い発散角と体積比をもつ安定した螺旋葉序が再現された.本研究により,頂端細胞の分裂面配向は幾何学的な最小面積規則に加え,重心からずれた分裂点を組み合わせた単純な規則によって説明できることが明らかとなった.
興味を持たれた方は唐原先生または玉置先生にご連絡ください.Teams の URL をお伝えします.田端桂介