ミゾソバ群の染色体数およびミゾソバの種内倍数性とその形態

熊谷 大輔(平成16年度卒業)

要旨

 ミゾソバ群には, 狭義のミゾソバ (Persicaria thunbergii var. thunbergii) の他, 変種のオオミゾソバ (P. thunbergii var. stolonifera), ヒカゲミゾソバ (P. thunbergii var. coreana), 変種または別種とされるヤマミゾソバ (P. thunbergii var. oreophila), それにコミゾソバ (Persicaria sp.)が知られている。
 ミゾソバの染色体数は, 国外ではn=20, 2n=40, ca.44, 日本産では2n=34, 40が報告されている。最近, 当研究室の鈴木 (1999) は我が国には2n=20と2n=40が存在することを明らかにしているが, ミゾソバ群の他の分類群は, いずれも染色体数は明らかにされていない。
 本研究は, ミゾソバ群の染色体数を明らかにするとともに, 2n=20と2n=40の存在が知られているミゾソバについて, 富山県内での分布と倍数体間での形態的違いを明らかにすることを目的とした。
 材料には, 富山県, 岐阜県, 愛知県, 東京都, 滋賀県, 福岡県, 長崎県の54ヵ所から採集したミゾソバ224個体, 東京都と愛知県の2ヵ所から採集したヤマミゾソバ4個体, 東京都, 長野県, 愛知県の3ヵ所から採集したオオミゾソバ8個体, 愛知県と福岡県から採集したヒカゲミゾソバ2個体, それに愛知県と岐阜県の3ヵ所から採集したコミゾソバ7個体を用いた。
 染色体は, 根端をオルセインで染色し押しつぶし法により観察した。ミゾソバの倍数体間での形態比較は, 葉身長, 葉身幅, 中央裂片基部幅(くびれ)を計測し, 葉身長/葉身幅, 葉身幅/くびれの値を求めた。この2つの形質に加え, 花序一つあたりの小花数, 托葉幅, 地下部の形態の5形質について比較を行った。
 染色体観察の結果, オオミゾソバ (2n=40), ヒカゲミゾソバ (2n=40), ヤマミゾソバ (2n=38), コミゾソバ (2n=20) であることが初めて明らかになった。また, ミゾソバには2n=20の二倍体と2n=40の四倍体が存在することが確認され, 鈴木 (1999) の報告と一致した。この結果, ミゾソバ群の染色体基本数はミゾソバ, オオミゾソバ, ヒカゲミゾソバ, コミゾソバではx=10, ヤマミゾソバではx=19であることが明らかになった。ヤマミゾソバの染色体基本数は, 2n=40から2n=38への倍数性落下 (polyploid drop) により生じたと考えられる。
 富山県内の二倍体ミゾソバと四倍体ミゾソバの分布は, 四倍体ミゾソバが県内全域に広く分布しているのに対し, 二倍体ミゾソバは山間部にまばらに生育しており, しばしば四倍体ミゾソバと混在して生育していた。また, 全国的には北陸から九州北部の日本海側に分布していることが明らかになった。
 二倍体ミゾソバと四倍体ミゾソバの間では, 小花数, 葉身長/葉身幅, 葉身幅/くびれ, 托葉幅の4つの形質で有意な差が認められた。両者の地下部の形態は著しく異なっており, 二倍体ミゾソバと四倍体ミゾソバは外部形態から明確に区別できることがわかった。