カワラハハコの核型とB染色体

宮崎 絢子(平成17年度卒業)

要旨

 ヤマハハコ属は世界に約110種あり、わが国には3種6変種知られている。そのうちカワラハハコの染色体数は、群馬県渋川市産(利根川)の個体において2n=28(荒野1963)、北海道旭川市産(石狩川)の個体において2n=28、28+9fragment(西川 1979)が報告されている。西川(1979)が観察したfragment(断片染色体)は、B染色体と判断される。B染色体は、常染色体以外に余分に含まれる染色体で、常染色体とは異なる形態や行動をとり、種内において大きさや動原体の位置が異なる複数の型が存在する例(シロヨメナ、スイバなど)や細胞間で数が変化する例(イヌヨモギ、チシマフウロなど)が知られている。本研究は、カワラハハコの核型とB染色体の特徴を明らかにするために、富山県産のカワラハハコを用いて観察を行った。
 材料は、黒部川(17個体)、片貝川(15)、早月川(25)、常願寺川(25)、神通川(13)、庄川(17)の6か所から合計112個体を採集した。採集した個体はビニールポットに植えて栽培した。発根した根の先端を用いて、押しつぶし法により標本を作製して染色体を観察した。
 観察の結果、すべて2n=28の4倍体であり、過去の報告と一致した。B染色体は黒部川の4個体、常願寺川の4個体、神通川の1個体、庄川の1個体、合計10個体(8.9%)においてみつかった。いずれの個体のB染色体もよく似ており、大きさは約0.7μm、狭窄はなかった。このB染色体は西川(1979)により報告されているものと形が同じであった。カワラハハコのB染色体の数は、個体間・細胞間で変化し、1本の根端の細胞間で観察された最大の変異は5−23個であった。1本の根端の細胞間でB染色体の数が変化する仕組みとして、すでにイヌヨモギやチシマフウロなどで知られているように、体細胞分裂中期〜後期のB染色体の染色分体の不分離がある。カワラハハコのB染色体では、染色分体の不分離が頻繁に起こっていると考えられる。
 カワラハハコの核型は次中部動原体型染色体13対と次端部動原体型染色体1対から構成されていた。染色体の長さは1.5-3.1μm、腕比は1.7-3.6であった。そのうちの1対の染色体は両腕がしばしば著しく離れ、特に前期では著しく離れていた。一次狭窄(動原体)の幅は、1細胞内の染色体の間では通常一定している。しかし、仁形成部である二次狭窄の幅は一定せず、しばしば著しく離れることがある。カワラハハコに存在するこの一対の染色体の狭窄部分は、動原体であるとともに仁形成部でもあると判断された。