マメ科植物の細胞分類学的研究

山崎 貴博(平成17年度修了)

要旨

 マメ科植物は世界に650属約18000種,わが国には70属198種11亜種7変種17品種が知られている。被子植物の中では染色体数がよく調べられている科の一つであり,わが国に分布するマメ科植物の多くについても染色体数が報告されている。しかし,報告された染色体数をみると,同一分類群に基本数の異なる報告がしばしば見られ,また核型の報告は,ソラマメ属やレンリソウ属などの大型から中型の染色体を持つ一部の属に偏っており,小型の染色体をもつ多くの属では核型の解明は不十分である。
 本研究では,マメ科植物の類縁関係および染色体進化の解明を目的として,わが国に分布するマメ科植物の染色数を明らかにするとともに,核型の分析を行った。
 観察を行った29属43種2亜種の染色体数は,カワラケツメイ(2n=16),オジギソウ(2n=78),ネムノキ(2n=26),クララ(2n=18),センダイハギ(2n=18),ヤハズノエンドウ(2n=12),カスマグサ(2n=14),スズメノエンドウ(2n=14),ツルフジバカマ(2n=24),ヒロハクサフジ(2n=12),ナンテンハギ(2n=24),ハマエンドウ(2n=14),エゾノレンリソウ(2n=14,42),クサネム(2n=40),ナツフジ(2n=16),ヤマフジ(2n=16),コメツブウマゴヤシ(2n=16),ウマゴヤシ(2n=14),コメツブツメクサ(2n=30),タチオランダゲンゲ(2n=16),ムラサキツメクサ(2n=14),シロツメクサ(2n=32),セイヨウミヤコグサ(2n=12,24),ミヤコグサ(2n=12),コマツナギ(2n=16),ゲンゲ(2n=16,32),キバナオウギ(2n=16),リシリゲンゲ(2n=48),アレチヌスビトハギ(2n=22),ヌスビトハギ(2n=22),ヤマハギ(2n=22),ネコハギ(2n=20),メドハギ(2n=20),ヤハズソウ(2n=22),タンキリマメ(2n=22),ヤブツルアズキ(2n=22),ホドイモ(2n=22),ハマナタマメ(2n=22),クズ(2n=22),ダイズ(2n=40),ツルマメ(2n=40),ノササゲ(2n=20),ヤブマメ(2n=22),ハリエンジュ(2n=22),イタチハギ(2n=40)であった。
 これらのうち,ナツフジ(2n=16),ヤブツルアズキ(2n=22),ホドイモ(2n=22)の染色体数は初めての報告であり,コメツブツメクサの2n=30,ゲンゲの2n=32およびリシリゲンゲの2n=48はこれまで報告のない新たな染色体数であった。その結果,ゲンゲ(2n=16,32)では初めて種内倍数性が確認され,エゾノレンリソウ(2n=14,42)とセイヨウミヤコグサ(2n=12,24)では,わが国において初めて種内倍数性の存在が確認された。
 中期染色体を対象に核型分析を行うことができた33種1亜種の核型は,その特徴から,一相的・勾配的・対称的核型,一相的・勾配的・非対称的核型および二相的・急勾配的・対称的核型に分けられた。一相的・勾配的・対称的核型の観察された分類群はカワラケツメイ,クララ,センダイハギ,カスマグサ,スズメノエンドウ,ツルフジバカマ,ヒロハクサフジ,ナンテンハギ,ヤマフジ,コメツブウマゴヤシ,ウマゴヤシ,コメツブツメクサ,タチオランダゲンゲ,ムラサキツメクサ,シロツメクサ,セイヨウミヤコグサ,ミヤコグサ,コマツナギ,ゲンゲ,キバナオウギ,アレチヌスビトハギ,ヌスビトハギ,ヤマハギ,ネコハギ,メドハギ,タンキリマメ,ホドイモ,クズ,ノササゲ,ハリエンジュおよびイタチハギと最も多く,一相的・勾配的・非対称的核型はヤハズノエンドウのみであり,二相的・急勾配的・対称的核型はハマエンドウとエゾノレンリソウだけであった。これらを平均染色体長で分けると,2μm未満の分類群はカワラケツメイ(1.6μm),ヤマフジ(1.7μm),コメツブウマゴヤシ(1.7μm),ウマゴヤシ(1.8μm),コメツブツメクサ(1.2μm),タチオランダゲンゲ(1.5μm),ムラサキツメクサ(1.7μm),シロツメクサ(1.4μm),セイヨウミヤコグサの二,四倍体(1.6μm,1.8μm),ミヤコグサ(1.6μm),ゲンゲの二,四倍体(1.4μm,1.1μm),アレチヌスビトハギ(1.8μm),ヤマハギ(1.7μm),ネコハギ(1.8μm),メドハギ(1.7μm),クズ(1.9μm),ノササゲ(1.5μm)およびハリエンジュ(1.8μm)。2μm以上3μm未満の分類群はセンダイハギ(2.2μm),コマツナギ(2.1μm),キバナオウギ(2.8μm),ヌスビトハギ(2.4μm),タンキリマメ(2.2μm),ホドイモ(2.4μm),イタチハギ(2.3μm)。3μm以上4μm未満の分類群はクララ(3.7μm),ヤハズノエンドウ(3.0μm),カスマグサ(3.4μm),スズメノエンドウ(3.7μm)。そして4μm以上の分類群はツルフジバカマ(4.7μm),ヒロハクサフジ(5.5μm),ナンテンハギ(6.0μm),ハマエンドウ(4.2μm)およびエゾノレンリソウの二,六倍体(5.1μm,5.0μm)であった。平均染色体長が4μm以上の分類群は,ソラマメ連の2属(ソラマメ属,レンリソウ属)に限られていた。この2属は染色体のサイズが最小でもヤハズノエンドウの3.0μmであり,ソラマメ連以外の植物と比べると,いずれも染色体が大型であった。核型については,ソラマメ連の2属は二相的または非対称的核型を示し,その他の属はすべて一相的・対称的核型を示したことから,今回観察を行った植物の中では,この2属は特異な存在であった。
 今回の観察において,ソラマメ属,ウマゴヤシ属,シャジクソウ属およびハギ属の4属では,属内に複数の染色体基本数が確認された。これらの属で観察されたほとんどの染色体は中部動原体型であった。したがって,それらの基本数の分化は,動原体開裂や融合によるロバートソン型変化では説明できず,属内での染色体基本数の分化がどのようにして生じたかは解明できなかった。
 核型分析を行った27種を,SAT染色体の二次狭窄の位置に注目して,長腕の端部に二次狭窄が存在する染色体をもつ種(A),長腕の介在部に二次狭窄が存在する染色体をもつ種(B),長腕の基部に二次狭窄が存在する染色体をもつ種(C),短腕の端部に二次狭窄が存在する染色体をもつ種(D),短腕の介在部に二次狭窄が存在する染色体をもつ種(E)および短腕の基部に二次狭窄が存在する染色体をもつ種(F)の6タイプに分けたところ,次のようになった。
A: ヤハズノエンドウ,ヒロハクサフジ。
B: ヒロハクサフジ,エゾノレンリソウ,シロツメクサ,キバナオウギ。
C: カワラケツメイ,コメツブツメクサ,タチオランダゲンゲ,ムラサキツメクサ。
D: スズメノエンドウ,コマツナギ,メドハギ,クズ,ノササゲ,ハリエンジュ,イタチハギ。
E: ツルフジバカマ,ヒロハクサフジ,ナンテンハギ,エゾノレンリソウの六倍体,ネコハギ,タンキリマメ,ホドイモ。
F: センダイハギ,ヒロハクサフジ,ハマエンドウ,コメツブウマゴヤシ,ウマゴヤシ,ゲンゲ,ヌスビトハギ,タンキリマメ。
 これらの中で,ヒロハクサフジ,エゾノレンリソウの六倍体,タンキリマメは複数のタイプのSAT染色体をもっていた。二次狭窄をもつ染色体腕とその位置によるタイプ分け(A-F)は,マメ科の分類体系とはほとんど一致せず,ソラマメ属,レンリソウ属,シャジクソウ属,ゲンゲ属,ハギ属,タンキリマメ属では同一属内に複数のタイプが存在することがわかった。ソラマメ連の2属を除くと,核型はいずれも一相的・勾配的・対称的核型を示すものの,二次狭窄をもつ染色体はB-Fの型に分けられ,多様であることから,これらの属では,逆位を中心とした染色体の構造変異によって核型進化が行われてきたことを示唆している。