オオバコ属数種の倍数性と形態

山崎 貴博(平成15年度卒業)

要旨

 わが国のオオバコ属には、エゾオオバコ、オオバコ、トウオオバコ、それにハクサンオオバコの在来種のほかに、セイヨウオオバコ、ツボミオオバコ、ヘラオオバコなどの外来種が知られている(Ohwi & Kitagawa, 1992; Shimizu, 2003)。トウオオバコにはイソオオバコとテリハオオバコの2変種が知られており(Ohwi & Kitagawa, 1992)、また在来種のトウオオバコをセイヨウオオバコの変種とみなす研究者もいる。オオバコには4倍体型と6倍体型が知られ、トウオオバコには2倍体型と6倍体型が知られている(Fujiwara, 1955,1956; 荻野, 2002)。6倍体型オオバコと6倍体型トウオオバコは、生育場所は異なるものの、外部形態が酷似している。
 本研究は、6倍体型オオバコと6倍体型トウオオバコの形態上の識別点を明らかにするとともに6倍体型トウオオバコの起源解明を目的として、セイヨウオオバコ、トウオオバコ(2倍体型、6倍体型)、イソオオバコ、テリハオオバコ、それにオオバコ(4倍体型、6倍体型)の染色体観察、ならびに外部形態の比較を行った。
 染色体の観察の結果、セイヨウオオバコは2倍体(2n = 12)、イソオオバコとテリハオオバコも2倍体(2n = 12)であった。テリハオオバコが2倍体であることが初めて明らかになった。また、2倍体型トウオオバコとテリハオオバコの双方において、非還元配偶子形成によると考えられる3倍体(2n = 18)が見つかった。
 外部形態の観察からは、2倍体型トウオオバコとテリハオオバコは区別できなかった。テリハオオバコは北海道に産し、トウオオバコに比べて葉が厚く光沢がある(Ohwi & Kitagawa, 1992)とされてきたが、この違いは6倍体型トウオオバコと比較した場合の違いである。テリハオオバコは北海道産の2倍体型トウオオバコであると判断された。イソオオバコは、テリハオオバコやトウオオバコ(2倍体型、6倍体型)に比べて葉身長、葉身/(葉身+葉柄長)、その他の量的形質においてテリハオオバコならびにトウオオバコよりも小さく、明確に区別された。セイヨウオオバコは、葉身長、花穂長/花茎長等においてテリハオオバコや2倍体型および6倍体型トウオオバコよりも小さい値を示し、またイソオオバコとも明確に区別された。
 4倍体型オオバコと6倍体型オオバコの比較では、花茎長と種子数において6倍体型オオバコのほうが大きい値を示し、明瞭に区別された。また、これらのオオバコは、種子長や上蓋の高さおよび種子数等においてイソオオバコ、セイヨウオオバコ、テリハオオバコ、それに2倍体型トウオオバコとは明瞭に区別された。
 荻野(2002)は6倍体型オオバコと6倍体型トウオオバコの区別点として、萼片の切れ込みの深さをあげている。しかし、今回の観察個体では6倍体型オオバコと6倍体型トウオオバコは外部形態では区別できなかった。したがって、荻野(2002)が指摘した萼片の切れ込みの深さは6倍体型オオバコと6倍体型トウオオバコの区別点にはならないことが判った。6倍体型トウオオバコの様々な形質は2倍体型トウオオバコと4倍体型オオバコの中間の値を示していることから、荻野(2002)が述べたように、6倍体型トウオオバコは2倍体型トウオオバコと4倍体型オオバコの交雑によって生じた植物であると思われる。形態上の特徴からは、今回、その起源を証明する明確な証拠は得られなかった。今後は6倍体型トウオオバコが2倍体型トウオオバコと4倍体型オオバコの染色体を合わせ持っていると考えられることから、交雑による雑種の作出ならびに分子細胞遺伝学的手法による染色体の分析を行うことにより、6倍体型トウオオバコの起源を明らかにする予定である。