2003年度 前期第5,6回 細胞生物学セミナー
日時:5月13日(火) 16:30〜
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
A pectate lyase from Zinnia elegans is auxin inducible
Domingo,C.Roberts,K.Stacey,N.J.
Connerton,I.Ruiz-Teran,K and McCann,M.C.(1998)
Plant Journal13(1):17-28
植物の形態形成は細胞分裂時の細胞板形成、細胞分化、細胞伸長、器官形成など細胞壁の構築過程を通して行われ、器官や組織は固有の細胞壁の変化によって表現される。従って、細胞壁構築の制御機構を解明することにより、植物の形態形成のしくみを明らかすることが出来ると考えられる。しかし、形態形成における細胞壁の変化をin vivoで調べることは困難である。そこで、植物は成熟した細胞から植物個体を再生する能力(分化全能性)を持つことを利用し、ヒャクニチソウ単離葉肉細胞をオーキシンとサイトカイニンを等量含む培地で培養することで、単細胞のまま導管細胞へと同調的に変化させることによって、in vitroで形態変化に伴う遺伝子レベル・蛋白レベルでの変化の解析を試みた。単離葉肉細胞は培養後、脱分化、分化転換、細胞壁形成、プログラム細胞死を経ることによって48hで道管細胞に特徴的な二次細胞壁の縞模様が見え始め、72h後にはには約40%の細胞が道管細胞への分化 を完了する。そこで、細胞壁の再構築に関わる酵素の遺伝子を特定するために、培養後72hの細胞からRNAを抽出してcDNAに逆転写しこれに対するプローブとして24hと72hの組織からRNAを抽出してDifferential
hybridization 法を行うことにより、分化に伴って発現の増加が見られるクローンを同定し、解析した。このうちペクチン分解酵素であるpectate
lyaseと相同な配列を持つcDNA(ZePel)を単離し、その発現と活性を詳細に検討した。まず、このcDNAをプローブとしてそれぞれオーキシンのみ、サイトカイニンのみ、その両方を等量含む培地で96h培養した単離葉肉細胞でのZePel mRNAの発現をノーザンブロット法により調べたところ、ZePelの発現はオーキシンによって誘導されている可能性が示唆された。次に、ZePelの器官特異性を検討するために、それぞれ4週齢の茎、根、葉、花、2週齢の若木におけるZePelの発現を調べたところ、根で高い発現が見られ、茎、花、若木でもわずかな発現が見られたが、葉ではほとんど発現していなかった。さらに、ZePel mRNAの生体内での局在を調べるために、ヒャクニチソウの三週齢芽生えの根と茎に対しZePel
から作られたRNAプローブを用いたin situ ハイブリダイゼーション法を行った。その結果、茎では木部、篩部において、根では形成層と篩部への分化途中の細胞での局在がみられ、ZePelが維管束形成に関わる遺伝子である可能性が示された。また、大腸菌のプラスミドにZePelを導入し、組み換えタンパク質を作製して、その酵素活性を様々な条件で調べたところ、カルシウム依存的であることやpH10付近でその活性が最も高まるなどpectate lyaseと類似した特徴が明らかになり、この酵素はpectate lyase であることが示唆された。また、オーキシンの有無と酵素活性との関係を調べたところ、オーキシン含む培地でのみ酵素活性が見られ、この酵素はオーキシンで誘導されることが確認された。
興味のある方はぜひご来聴下さい。 土屋 紀之