2003年度 前期第8回 細胞生物学セミナー
日時:5月27日(火) 16:30〜
場所:総合棟6階 クリエーションルーム
The mechanical properties of xylem tissue from tabacco plants
(Nicotiana tabacum `Samsun')
HEPWORTH ,D.G.and VINCENT,J.F.V.(1998)
Ann .Bot.81:751-759
植物は組織を強固にするために道管や仮道管、木部繊維などの細胞壁を木化することで植物体を支持している。木化とは細胞壁の隅からリグニンの堆積が細胞間隙へと広がる過程のことをいう。リグニンは多数のリグニン合成酵素によって合成されるが、CAD(cinnamyl alcohol dehydrogenase)はその中のひとつである。CADはフェノールアルデヒドのフェノールアルコールへの転換を行うことでリグニン合成を調節している。
これまでリグニン合成酵素のアンチセンス遺伝子をもった多くの変異体が作られ、CADの活性を75%無くしたアンチセンスCAD変異体もHalpinらによって作られた。細胞の縦の軸と並んだ木部組織の機械的性質は、細胞壁マトリックス内の変化に非常に影響を受けるということは良く知られており、現在通用しているメカニカルモデルに一致している。そこで著者らはアンチセンスCAD遺伝子を持ったタバコを利用して、そのリグニンマトリックスの遺伝的な変化が木部組織の構造およびその機械的性質にどのような影響を及ぼすかを調べた。
野生型のタバコとアンチセンスCAD遺伝子を持ったタバコの木部組織の構造およびその機械的性質を比較した結果、木部組織細胞の大きさとセルロースミクロフィブリルの配向、木部組織繊維細胞の長さと直径などの値は野生型とアンチセンス導入タバコの間にはほとんど違いが見られなかったが、木部組織の縦の張力を表す値は野生型のタバコで2.8GPa、アンチセンス導入タバコで1.9GPaとアンチセンス導入タバコではコントロールのタバコの2/3の値となり、有意な差が見られた。また木部組織の剪断変形率においては、野生型の木部組織の一次壁の剪断変形率がアンチセンスの剪断変形率に比べ二倍の値であった。
この結果から、アンチセンス導入タバコはリグニンマトリックスの遺伝的変化によって、野生型のタバコに比べ木部組織の機械的性質が劣っているということがわかった。またこのことからタバコの木部組織の細胞壁は、現在通用している細胞壁のメカニカルモデルから予測した値に比べ、マトリックスの性質の変化に、より敏感であることがわかった。また機械的な強さを表す値は重合体の変化と関係が深いことから、アンチセンスCAD遺伝子を持ったタバコではリグニンのアルデヒド含有量が非常に多く、そのためリグニンの重合体の密度が減少しているのではないかと推測される。
興味のある方は是非ご参加下さい。 玉置 大介