2003年度 前期第12・13回 細胞生物学セミナー

日時:7月1日(火) 16:30から

Regulation of differential growth in the apical hook of Arabidopsis

Vered Raz, Joseph R. Ecker(1999)

Development 126 : 3661-3668

 双子葉植物の芽生えの上部には鉤状の構造が存在し、フックと呼ばれている。フックは、種子が発芽して地上部に出るまで、先端の茎頂分裂組織を保護するために鉤状となっていると考えられている。この構造は黄化芽生えに顕著で、光を受けると展開する。フックの形成は構造内の細胞が偏差生長することによって組織化されている。フックにおける偏差生長を調節しているホルモンとしては、エチレンやオーキシンが知られ、広く研究されおり、フック形成にエチレンが働いていることについては1960年代後半にすでに報告されている。エチレン存在下ではフック組織は極度の屈曲がみられ、いわゆる"pig tail"と呼ばれる状態になる。エチレンが引き起こす形態変化のなかで、芽生えのフック形成は大変興味深い現象であるものの、エチレンによるフック形成の制御機構の詳細な解明は成されていない。
 そこで著者らは、モデル植物であるシロイヌナズナの野生型とフックに影響を受けた様々な突然変異体(hls1: hook less, cop2: constitutive photomorphogenic 2, etr1: ethylene resistant 1, ein: ethylene insensitive)を用いて、フックの発達に対するエチレンの役割について検討した。著者らは、様々な条件でフックが段階的に形成される様子を時間経過に伴って観察した。また、whole-mount in situ hybridization法を用いて、エチレン生合成経路の最後の段階を触媒するACC酸化酵素をコードする遺伝子AtACO2とエチレン受容体をコードする遺伝子ETR1の発現量を調べた。
 著者らはフックの発達の段階を、フックの形成期間、フックの屈曲を維持する期間、フックが開いていく期間の三つに分別した。今回の研究の結果から、フックの形成が胚軸の先端部で起こった後、HLS1COP2によってその構造が維持され、それらの遺伝子はETR1の発現によってネガティブに調節されていることが示唆された。また、フックの屈曲を維持する期間内における一部の時間帯だけ、フックはエチレンを感受しEINがフックを維持すること、その期間内にエチレン量が増加するとフックの極度な屈曲が起こり、それはAtACO2の発現位置と発現量により調節されていることが示唆された。

           興味のある方は是非ご来聴下さい      本間 善弘