2003年度  前期第16回  細胞生物学セミナー

日時:7月15日(火)16:30〜

場所:総合研究棟六階 クリエーションルーム

PMR6, a Pectate Lyase Like Gene Required for Powder
Mildew Susceptibility in Arabidopsis

John P. Vogel,Theodore K. Raab, Celine Schiff, and Shauna C. Somerville

Plant Cell, 14, 1-13(2002)


 Powder Mildew(うどん粉病)は葉が白い粉を吹いたようになる糸状菌病の一種で、はじめは白い粉を撒いたような薄い菌叢を形成するが、菌叢は徐々に厚くなり、葉全体が覆われ枯死する。植物は病害に対し、活性酸素の発生や過敏感細胞死の誘導、抵抗性遺伝子の発現など様々な防御応答を発動させ、自らの身を守っている。このような防御応答に関する病害抵抗性遺伝子の研究とは対照的に、感染に関わる植物側遺伝子に対する知見は少ない。そこで、そのような病害感受性遺伝子について詳細に調べるために、EMS処理法、T-DNA tagging法を用いてシロイヌナズナで新たなPowder Mildew耐性変異体の単離を試み、powdery mildew-resistant(pmr6-1pmr6-5)を得た次に、この変異体の持つ病害応答機構を明らかにするために、pmr6-1を用いた様々な実験を行った。まず、防御応答を誘導するシグナル伝達物質であるサリチル酸、ジャスモン酸、エチレン、またその結果誘導される抗菌性タンパク質であるPRタンパク質の機能を阻害するような二重変異体を作成し、Powder Mildewに対する耐性を調べた。その結果、いずれの個体においても病原菌の増殖は著しく抑制された。さらに、野生種とpmr6-1に菌体を接種する事によって、PRタンパク質遺伝子の発現量の時間的な変化を測定した。その結果、変異体と野生種との間に発現量の差は見られず、この抵抗性はPRタンパク質の増加によらないことが示された。また、死細胞を染色することによって、感染部位に形成される壊死病斑についても調べたところ、葉脈周辺に遺伝子の欠損に由来すると思われるいくつかの死細胞が見られたが、コロニー周辺での菌体の感染による壊死は見られなかった。これらの事から、pmr6が示すPowder Mildew耐性は既知の防御応答のいずれにも属さない可能性が示唆された。次に、PMR6の示す感受性が、Powder Mildew感染に特異的であるかを調べるために、Powder Mildewとは異なる病原性を示す複数の病原体を野生種とpmr6-1に接種した。この場合は、野生種と同様の感染が見られ、PMR6の示す感受性は特異的なものであることが示唆された。この変異型の原因遺伝子を特定するために、PMR6をクローニングし、解析を試みたところ、この遺伝子はほとんどの組織で等しく発現し、病原体の接種のよる発現量違いは見られなかった。さらには、PMR6はペクチン分解酵素の1つであるpectate lyase様遺伝子であり、C末端に84アミノ残基からなる未知の配列を持つことが明らかになった。また、この遺伝子のコードするタンパク質PMR6がpectate lyaseとしての働きを持っているか否かの1つの指標として、野生種とpmr6-1の細胞壁構成成分の違いをフーリエ変換赤外線分光光度計を用いた解析を試みた。結果、この変異体は野生種よりも多くのペクチンを細胞壁に含むことが分かり、PMR6はpectate lyase活性を示す可能性が強く示唆された。

興味のある方はぜひご参加ください  土屋 紀之