2004年度 前期 第20・21回 細胞生物学セミナー

日時:7月20日(火) 16:30〜

Regulation of root elongation under phosphorus stress

involves changes in ethylene responsiveness

Zhong Ma,. Baskin, T., Brown, M., and  Lynch, J.(2003)

Plant physiol. 131 :1381-1390

 

 植物の根はリンが不足した環境に適応するために、生理的、形態的に生長のパターンを変化させるなどの反応を示す。リンが不足している環境に対する根の反応にはエチレンが関与していることが示唆されている。リンの欠乏とエチレンが引き起こす根のシステムへの影響は、根の形態や根の生長の変化、根毛の発達の変化にみられるように類似している。インゲンにおいて、エチレンはリンが十分な環境下では根の伸長を抑制するのに対して、リンが不足している環境下では伸長維持に働いていることがわかっている。このことから、根におけるリンストレス反応が生長の調節を含め、エチレンのシグナル伝達過程を変化させている可能性が考えられる。

 この報告を元に、著者らは植物の一次根のリンに対する反応を介したエチレンの役割に着目し、根の伸長の様子をリアルタイムで観察し、詳細に解析した。具体的には、生長に必要なリンを十分に与えた条件(1mM)および、リンが不足している条件(1μM)、エチレンの作用阻害剤である1-methylcyclopropene(MCP)処理条件において、根の1μm間隔の各部位の単位時間当たりの移動速度(velocity)、根の1μm間隔の各部位の相対的な伸長率、皮層細胞、根毛形成細胞(trichoblast)、根毛非形成細胞(atrichoblast)それぞれにおいて、細胞が分裂帯で産生され成熟帯に流入してくる頻度(cell flux rate)、細胞の長さなどの定量を行った。また、各条件について根毛形成が開始される位置を調べた。

 その結果、リンが十分な条件ではリンが不足した条件よりもvelocityが高く、リンが十分な条件においてはMCP処理によってvelocityが増加するが、リンが不足した条件においてMCP処理はvelocityを減少させることがわかった。また、根の分裂帯と伸長帯の各部位での相対的な伸長率の解析から、急激に伸長する領域の長さはリンの不足により減少し、リンが十分な条件において、MCP処理により、その領域内での伸長率が増加することが分かった。cell flux rateについては、リンが不足している条件ではMCP処理により減少し、リンが十分な条件ではMCP処理をしても変化がみられなかった。それとは逆に、細胞の長さは、リンが十分な条件でMCP処理により増加したが、リンが不足した条件では変化しなかった。さらに、根毛の形成開始位置はリンが不足する条件において静止中心に近づき、エチレンの抑制によりさらにその距離は縮まった。逆にリンが十分な条件においては全く逆の結果が得られた。これらのことは、エチレンはリンが不足している条件下においては伸長帯の長さに影響を与えないが、伸長帯における伸長率の維持と細胞分裂の速度の維持に働いていることを示している。また根毛の形成開始位置は伸長帯の長さ、各部位の伸長率、velocity、cell flux rateなどにより決まる伸長領域のサイズに伴って変化していることが示唆された。

               興味を持たれた方は是非ご参加下さい  本間 善弘