2003年度 後期第1回 細胞生物学セミナー
日時:10月07日(火)16:30~
場所:総合棟6階 クリエーションルーム
A comparative molecular-physiological study of
submergence response in lowland and deep-water rice
Dominique Van Der Straeten, Zhongyl Zhou, Els Prinsen
, Harry A. Van Onckelen, and Marc C. Van Montagu
Plant Physiol. 125 : 955-968 (2001)
イネ(Oryza sativa)は半水生植物であり、水の必要性と水に対する体制によってhighland(陸稲)、lowland(水稲)、deepwater
rice(浮き稲)の3つのecotypeに分類される。Deepwater riceは東南アジアで栽培され、雨期などによって水田の水位が上昇し数mに達しても、それに応じて茎の節間成長により伸長を続け、水没することなく常に水中から葉や穂を出している。この浸水応答の素早い伸長成長は酸素不足により誘導され、エチレンにより調節されていることが報告されている。エチレンは根や茎が浸水すると植物体からの拡散が妨げられ、植物体内のエチレン濃度が上がり、そのエチレンがジベレリン(GA)とアブシジン酸(ABA)レベルのバランスを調節することにより伸長成長を促進すると考えられている。さらに酸素不足はACC(エチレン前駆鯛)合成酵素(ACS)を活性化されエチレン合成の増加を誘導すると報告されている。
Deepwater riceは生長にかなりの栄養分が使われるため、低栄養で収穫量は低い。そこで、高栄養で収穫量も高いlowland riceの栽培品種植物が浸水する地域で栽培できるよう、遺伝子工学によって適応応答させる研究の第一歩として、lowland
riceとdeepwater riceの浸水条件下で誘導されるACS遺伝子(OS-ACS5)について研究した。著者らは浸水によって誘導されるACS、ACCエチレンABA、GAレベルの変化と、生長と分化のパターンの相互関係を調べることによって、浸水耐性に差が生じる分子学的・生化学的変化を確認することを試みた。低酸素条件下で、両品種においてGAはOS-ACS5のmRNAの蓄積を増加させ、ABAはmRNAの蓄積を減少させるという正反対の影響を示した。浸水処理をした場合、lowland
riceは伸長生長の継続は見られなかったものの、初期に突発的に生長するという浸水応答が観察された。外生のACCで処理したlowland riceの植物体でOS-ACS5のmRNAの蓄積が増加していたことから、エチレンとGAレベルの増加に伴って、初期には浸水条件に適応応答し、伸長生長したのではないかと考えられる。ACCがエチレンへ変換される作用と内生GAレベルの増加はdeepwater
riceに特徴的であった。したがって、OS-ACS5はdeepwater riceの初期、そして長期に渡りエチレンレベルを増加させ、浸水に適応したすばやい伸長生長に関わり、またACCのエチレンへの変換の低下が浸水条件下のlowland
riceの芽生えの生長を制限するということが示唆された。
興味のある方は是非ご参加下さい。 松田 香織