2003年度 後期第3,4回 細胞生物学セミナー
日時:10月14日(火) 16:30〜
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
Pectin engineering:Modification of potato pectin by
in vivo expression of an endo-1,4-β-galactanase
Susanne O.Sorensen,Markus
Pauly,Max Bush,Michael Skjot,Maureen C.McCann,Bernhard Borkhardt,and Peter
Ulvskov(2000)
Proc.Natl.Acad.Sci.USA. ,97,:7639-7644
ペクチン質は主として植物細胞壁の中層を構成する多糖の1つで、ガラクツロン酸がα-1,4結合したポリガラクツロナンに加えて、α-1,4結合ガラクツロン酸にα-1,2結合のラムノースが介在した主鎖を持ち、このラムノース残基に側鎖としてアラビノース、キシロース、フコース、ラムノース及びガラクトースを単独あるいは複数、櫛状に結合したラムノガラクツロナンからなる。ペクチン質の役割には、構造面としては細胞同士の結合の調節及び細胞拡張、細胞壁の機械的な保持などに関わり、生理面としてはシグナル分子の発生源、細胞分化や器官形成の誘導などに関わるなどとされている。このようなペクチンの機能解析への取り組みとして、細菌の糖分解酵素遺伝子を植物体に挿入する事によって、ペクチンに関わる細胞壁成分の変化をつぶさに観察することを試みた。
ジャガイモ(Solanum
tuberosum L.)の塊茎のペクチンはガラクトースがβ-1.4結合したガラクタンに富んでいる。糸状菌から単離した、ガラクタン分解酵素である38-kDaのエンドガラクツロナーゼ遺伝子を、ジャガイモの新規顆粒性澱粉合成酵素遺伝子のプロモーターの下流に挿入し、生長中の塊茎で発現させた。この遺伝子組み換え植物は外見上は野生種と変わりなかった。そこで、この酵素の塊茎ペクチンへの影響を調べるために、フーリエ赤外分光光度計と主成分分析によってその細胞壁成分の構成を調べたところ、エンドガラクツロナーゼ遺伝子を組み込んだ変異種では野生種に比べてガラクタンが減少していることがわかった。さらに糖を解析することによって、抽出前の細胞壁、エンドポリガラクツロナーゼ/ペクチンメチルエステラーゼ抽出物、炭酸ナトリウム抽出物、抽出後の細胞壁の単糖の構成比を調べた。結果、野生種に比較してガラクトースが30%減少していることがわかった。また、野生種に比べて変異種では、抽出前と抽出後での、ペクチン抽出の指標となるウロン酸の減少の度合いが高くなっていた。このことは、変異体ではエンドポリガラクツロナーゼ/ペクチンメチルエステラーゼによって細胞壁から抽出されるペクチン量が増加していることを意味しており、このペクチンの可溶性の上昇は、細胞壁の構造にガラクトースの減少とは別の何らかの変化があることを示唆している。最後に、エンドガラクツロナーゼによる1.4-β-D-ガラクタンの分解をより明確にするために、1.4-β-D-ガラクタンのモノクローナル抗体であるLM5を用いた顕微鏡観察を行った。まず、共焦点レーザー顕微鏡を用いて細胞壁を観察した。野生種では細胞壁全体での抗原の存在が見られたが、変異種においては細胞間隙の周りにわずかにあるだけであり、抗原の減少が確認された。電子顕微鏡を用いてさらにその部分を詳しく観察してみたところ、この抗原は細胞質膜に密着するような形で存在することがわかった。 興味のある方はぜひご参加下さい。 土屋 紀之