2003年度 後期第7・8回 細胞生物学セミナー

日時:10月21日(火) 15:30〜

Plant reproduction during spaceflight:

importance of the gaseous environment

Mary E. Musgrave, Anxiu Kuang, Sharon W. Matthews(1997)

Planta 203 : 177-184

 

 植物は宇宙で正常に生殖できるのだろうか?また、植物の生活環に重力がどのように関わるのか?このような問題の解明は陸上植物の進化を解明するためにも、また宇宙で作物生産を実現するためにも重要であると考えられる。軌道上においての生殖に成功し、種子を得ることは非常に困難であることがこれまでにわかっている。

 そこで著者らは、スペースシャトルSTS-54・CHROMEX03(6日間)、STS-51・CHROMEX04(10日間)、STS-68・CHROMEX05(11日間)においてライフサイクルの短いシロイヌナズナを用いて軌道上での生殖を可能とする最適な生育環境を検討した。植物は13-14日齢芽生えを打ち上げ、軌道上で開花するようにした。帰還後2〜3時間で回収し、in-vivoで花粉の生存力や花粉管の生長、柱頭のエステラーゼの活性などを観察した。また、得られた試料を固定、包埋し、顕微鏡観察をした。

 最初の実験であるSTS-54・CHROMEX03では、密閉された容器で植物を育成した。得られた植物は雌しべや葯が萎んでいるのが観察され、花粉は潰れており、正常な生殖は行えなかった。STS-54で得た葉の炭水化物の含有量の分析の結果、全体的な炭水化物の量と果糖の量が減少しており、地上実験対照区と比較すると61%であった。また、生育容器内の二酸化炭素が欠乏していることもわかった。STS-51・CHROMEX04では、培地にショ糖を多くし、容器内の二酸化炭素を豊富にしたところ、生殖の過程は受粉の段階までは正常であった。しかし、軌道上では花粉の移動に障害が生じた。そこでSTS-68・CHROMEX05では換気システムを導入した。その結果、生殖器官については地上対照実験と同様の発達を呈した。得られた種子を固定、包埋し、胚の観察を行ったところ、地上対照実験で得られたものの形態と類似していた。しかし、軌道上での期間が11日間であることから、成熟した種子は得られず、最も発達しているものでも子葉と幼根が発達中であった。今後、成熟した種子を得ることが重要な課題の一つとなるであろう。

 今回の実験の結果は、宇宙環境において植物を取り巻く物理的な環境が植物の生理学的な要求と合えば、軌道上においても植物は正常な発達ができ、生活環を全うすることができることを示している。

 

            興味のある方は是非ご来聴下さい     本間 善弘