2003年度 後期10,11回 細胞生物学セミナー

日時:11月11日(火)16:30~

場所:総合棟6階クリエーションルーム

High frequency plant regeneration from immature embryos of an elite barley 【Hordeum vulgare L. cv. Morex】

Y. Chang, J. von Zitzewitz, P. M. Hayes, T. H. H. Chen

Plant Cell Rep (2003) 21:733-738

 

 オオムギは、我々人間にとって重要な穀物であり、モデル生物でもある。オオムギを用いての遺伝子形質転換実験は、遺伝子研究にとっても育種学にとっても重要な技術だ。そのためには研究材料であるオオムギを能率良く植物再生させる必要がある。今回の研究ではオオムギの有料品種Morexの効率的な植物再生方法を確立した。

 植物を再生させるためには、まず、植物の一部(今回の研究ではオオムギの未熟種子を用いた)をカルス誘導培地に起き、カルスを発生させる。次に、そのカルスをシュート誘導培地に移し、シュートを発生させ、最後に発根誘導培地に移植し、in vitroで小植物を再生させる。その小植物を土に植え、さらに成長を促す。

 この論文は以下の点についての研究をまとめたものである。

@ カルスを発生させる未熟胚の大きさを、0.5mm間隔で0.5〜3.0mmの5種類に分けて、カルス形成率、コンパクトカルス(カルスの密度が高く、固いカルス)になる割合、シュート数、小植物体の数、アルビノシュート数を調べた。0.5〜2.0mmの3種類の胚からは100%カルスができ、それらがコンパクトカルスになる割合も、80%以上と高いものであった。未熟胚は大きいほど、小植物体ができにくく、アルビノ植物体の数が増えることが分かった。

A カルス誘導培地において2,4-Dとdicambaの植物再生への影響を調べた。カルス誘導培地にどちらも低濃度に含まれる場合は小植物再生率が悪かった。3mg/lの濃度が最適であり、どちらのホルモンでも同じくらいの数の小植物を再生した。

B カルスの継代培養を繰り返すことによる、植物再生効率の影響についても調べた。カルスの増殖率は、1回目の継代培養で最も高いものの、1〜6回目の継代培養で得られたカルスから得られる小植物の数に有意な差は見られなかった。

C 未熟胚から直接得られたカルスと、5回継代培養後のカルスを用いて、ベンジルアデニン(BA)またはカイネチン(KT)を含むシュート誘導培地での小植物再生の影響を調べた。前者のカルスにおいては、BA、KTの有意な差は見られず、カルス誘導3週間後にホルモンフリーのシュート誘導培地へ移植すると、最も効率よく小植物体が得られた。後者のカルスは、前者より高濃度のホルモンを要求し、同濃度ではKTよりBAの方が効果的であった。また、軟らかいカルスは植物体再生能力を持たないことがしばしば観察された。いずれのカルスから得られた小植物体には形態的な差はなく、繁殖能力のある実をつけた。

 

興味のある方は是非ご来聴下さい。 後藤 英子