2003年度 後期第10、11回 細胞生物学セミナー

日時:11月11日(火) 16:30〜

場所:総合棟6階 クリエーションルーム

Cell-wall architecture and lignin composition of wheat developed

in a microgravity environment

L. H. Levine,A. G. Heyenga,H. G. Levine,J-W Choi,L. B. Davin

A. D. Krikorian,N. G.Lewis  (2001)

Phytochemistry 57:835-846

 

 宇宙飛行による微小重力環境は、細胞壁の生体高分子物質の組成や含有量を増加させ、植物の生長と発達の過程に影響を与えると考えられている。また微小重力下における維管束植物の生長と地球上での二次実験によって、さまざまな植物種の生長において多くの異変が報告されている。その原因として、宇宙実験において生じる微小重力以外の生育環境の変化が問題であった可能性があり、植物がどのように微小重力を感知しているのかを調べる前に、微小重力以外の要因の生長に対する影響を調べ、実験を行うことが重要である。

 そこで本研究では、まず微小重力環境によっておこる生育環境の変化を考慮した生育容器を考案することが重要であると考えた。以前の実験では水と養分の供給が不十分であったと考え、持続した水と養分の供給が可能な養分パックを開発した。そして微小重力環境によりセルロースミクロフィブリル(CMF)の組成と細胞壁の構成は変化するのか、二次壁の沈着のパターンは微小重力下で変化するのか、など細胞壁構築に関与する微小重力の影響を調べた。これらを明らかにすることは、どのように重力が植物の生長と発達に影響を与えるのかを説明することだけでなく、宇宙探査と宇宙利用の観点から、微小重力環境下において植物の栽培を促すという点でも重要である。

 今回の実験においては小麦(Triticum aestiveum,var.Super Dwarf)を用い、 スペースシャトル ディスカバリー(STS-51)において軌道上で芽生えを10日間生育させ、細胞壁の形態や細胞壁の構成成分について地上対照実験区と比較した。

 まず第一に、微小重力下と地球上において生育した小麦の一次根のCMFの構成を急速凍結ディープ・エッチング法を用いて調べた結果、宇宙で生育させた小麦の細胞壁は1g重力下で生育した地上対照区の小麦と同様のCMFの配向を持つということが示された。第二に、微小重力下において生育させた全ての植物の根は寒天培地中を生育容器の底部に向かって成長していた。それらは「wandering」を示さず、他の研究者によって以前に報告されたような上向きの生長は示さなかった。第三に、宇宙で生育した小麦において原生木部と後生木部の道管要素の二次肥厚のパターンは地球上で生育したものと同様に正常に発達した。第四に、宇宙と地球上で生育した両方の小麦は正常に生育しており、芽生えの体積にも生産された生物量の質量にも両者の間に明らかで著しい違いはなかった。そして重力の大きさが異なる場合でもリグニンの量や成分に違いは生じ無いことが示された。                         

                                    興味のある方は是非ご参加下さい。    玉置 大介