2003年度 後期第12・13回 細胞生物学セミナー
日時:11月18日(火) 16:30〜
Cytochemical localization of reserves during seed development
in Arabidopsis thaliana
under spaceflight conditions
Anxiu
Kuang, Ying Xiao, Mary E. Musgrave(1996)
Ann.Bot.
78:
343-351
宇宙環境における植物の生育についての研究は、宇宙環境での作物生産の実現や陸上植物の進化を解明するために重要であると考えられている。しかし、宇宙環境において植物の育成に適当な環境を提供することは難しく、生長や発達における機能の低下、種子の不稔などが報告されている。
著者らは連続した3回のスペースシャトルでの実験により、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana (L.) ecotype Columbia)の生殖に適した環境を検討し、STS−68では軌道上で種子を得ることに成功した。以前の報告から、宇宙環境では炭水化物とタンパク質の量に変化が生じることが示されている。本論文では、軌道上で得られた種子の胚、胚乳、種皮の発達の各過程における貯蔵物質の沈着に重点をおいて調査した結果を報告する。
植物は14日齢芽生えをスペースシャトル打ち上げの18時間前に持ち込み、軌道上で開花するようにした。生育容器にはplant growth
chamber(PGC)を用い、換気システムを導入したplant growth unit(PGU)に装填し、11日間の軌道上実験を行った。帰還後2〜3時間で植物を回収し、種子はその直後固定、包埋した。試料から切片を作成し、光学顕微鏡観察を行った。染色は1%toluidine
blue Oを用いて行った。periodic acid-Schiff's (PAS)を用いた多糖類の検出と、1%aniline blue-black、7%酢酸を用いたタンパク質の染色を行い軌道上実験区と地上対照実験区で組織を比較した。
軌道上で得られた種子における胚の観察では、幼根、胚軸、茎頂分裂組織、子葉が正常に分化していることがわかった。また、貯蔵物質の沈着については、胚の初期の発達段階においてはデンプン粒は観察されず、胚軸の前形成層が分化する時期では、基本分裂組織において少量のデンプン粒が観察された。さらに発達段階が進み、子葉と胚軸の境目が屈曲しはじめると前形成層を除くすべての細胞でデンプン粒の増加が観察された。これらのことは地上対照実験においても同様であり、両条件に違いは観察されなかった。胚乳の発達や糊粉層におけるデンプン粒の蓄積とタンパク質貯蔵の発達段階による推移も正常であった。また、種皮においても二層の外珠皮と、圧縮された内側の内珠皮、内種皮、糊粉層の発達の様子や構造、配置すべてにおいて、軌道上実験と地上対照実験で得られた種子に違いは観察されなかった。これらの結果は、軌道上においても植物は種子の正常な発達をすることができ、生活環を全うすることができることを示している。
興味のある方は是非ご来聴下さい 本間 善弘