2003年度 後期第12,13回 細胞生物学セミナー
日時:11月18日(火) 16:30〜
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
F-actin-dependent
endocytosis of cell wall pectins in
meristematic root
cells. Insights from brefeldin
A-induced compartments
Frantisek Baluska*, Andrej Hlavacka, Jozef
amaj, Klaus Palme, David G. Robinson, Toru Matoh,
David W. McCurdy, Diedrik Menzel, and
Dieter Volkmann(2002)
Plant
Physiol.130:422-431
真核生物では小胞体(ER)、ゴルジ体(GA)、エンドソ−ム、リソソ−ム、細胞膜(PM)など分泌系のオルガネラ間で小胞輸送による物質輸送が行われている。特に高等多細胞生物では多様な生理活性に対応するために、トランスゴルジネットワーク(TGN)、エンドソ−ム、リソソ−ム、細胞膜といったTGN以降の分泌系とエンドサイトーシス経路による複雑な小胞輸送網、ポストゴルジ・ネットワークが発達している。
brefeidin A(BFA)は糸状菌が産生する抗生物質で、ER-GA間小胞輸送を阻害する働きがある。植物の分裂細胞をBFAで処理することで、核の周りに異種小胞の集まった大型のBFAコンパートメントの形成が見られると言われている。今回、トウモロコシ(Zea
mays)の根を材料に、各種ペクチン抗体、ER抗体、GAマーカーとなりうるAGP抗体、細胞質とPMに広く存在し小胞形成を制御するタンパク質ARF1の抗体、各種PMマーカーに対する抗体を用いてコントロール、BFA処理それぞれでの抗原の局在を観察、比較した。その結果、細胞壁中で架橋を形成しているペクチン、リサイクリングされていると考えらる細胞膜タンパク質およびARF1のBFAコンパートメントにおける局在が見られ、本来あるはずの部位におけるシグナルの減少がみられた。一方、架橋を形成していないペクチンやエキソサイト−シス経路にあるペクチン、ER、GA関連タンパク質のBFAコンパートメントへの局在は見られなかった。この事は、BFAコンパートメントの形成には、細胞壁ペクチンや細胞膜タンパク質の一部が関わるものの、ERやGAはその大きな要因では無い可能性を示唆している。さらに、latrunculin Bとoryzalinで細胞を処理することによりそれぞれF-actin、微小管を細胞から消失させ、BFA処理細胞においてBFAコンパートメントにおける局在が確認されているペクチン抗体JIM5を用いて同様の実験を行った。その結果、latrunculin
Bで処理した細胞においてのみBFAコンパートにおける局在が見られなかった。このことは、BFAコンパートメントの形成はF-actinが関与するエンドサイト−シス経路での取り込みによるものであることを示唆している。最後に、プロトプラスト化した細胞と低温条件化(4℃)でJIM5を用いた同様の実験を行った。いずれの条件においてもBFAコンパートにおける局在は見られず、エンドサイト−シスにより細胞壁のペクチンが取込まれBFAコンパートメントに加わることが明らかになった。これらの研究は、細胞壁ペクチンの細胞膜およびエンドソ-ムを介したサイクリングの可能性を示唆し、それは細胞の増殖、分化、極性形成、複雑な生理機能など様々な局面で重要な役割を果たしていると考えられる。
興味ある方はぜひ御来聴下さい 土屋 紀之