2003年度 後期14・15回 細胞生物学セミナー

日時:11月25日(火)16:30〜

場所:総合棟6階 クリエーションルーム

Ethylene modulates root-wave responses in Arabidopsis

Charles S. Buer,  Geoffey O.Wasteneys,  and Josette Masle(2003)

Plant Physiol. 132:1085-1096

 

 植物は物理的なストレスが存在する土壌環境に適応するために、しなやかな生長応答が必要である。根は接触に対して非常に敏感であり、重力誘導の接触による形態形成は様々な実験方法を用いて研究されている。広く研究された形態学的応答の一つは、根の波型生長である。Okada と Shimura(1990)らが最初にシロイヌナズナにおいて波型生長は重力誘導の接触による形態形成に起因すると報告してから、Simmons et al.(1995)とMullen et al.(1998)は重力および、または旋回運動が刺激を与えたと仮定した。このような表現型への影響は容易に決定することができるが、基本的な細胞の構造はあまり理解されていない。また、原因の作用因子は確認できないままであったが、著者らは生育容器内の気体環境の根の波型に与える影響は、重力が与える影響に打ち勝つということを発見した(Buer et al., 2000)。エチレンは植物体の多くの生長過程とストレス応答を調節することが報告されており、エチレンと他の生長調節因子(abscisic acid、 aixin、cytokinins、gibberellins)はクロストークし、そしてスクロースのシグナル伝達とも関係する。

 そこで著者らは、エチレンがシロイヌナズナにおいて根の波型の調節因子として、形態学的応答を活性化するか否か調べるための実験を行った。実験は一定の重力ベクトルを保持したまま、傾けた寒天培地の表面で生長している芽生えの周囲の外生エチレン濃度を、異なる通気性のフィルムで覆った。その結果、エチレンは重力誘導の物理的刺激によって促される根の形態形成に対する調節の鍵となる要因であることが明らかになった。つまり、エチレン存在下では根毛の密度と根の直径が著しく増加し、根の伸長生長が抑制された。さらに、1時間あたりに増加した波数と波長が劇的に増加し、根の生長方向が大きく変化した。さらに、エチレンは根の波型、根の曲流、細胞列のねじれ、そして寒天のスクロースと栄養分のイオンの濃度による生長調節に影響を与えることが示唆された。栄養分とスクロースの濃度を増加すると、全く与えてない場合と比較して、根の波数と波長が低下した。密封しエチレン濃度が高めた場合、栄養分の存在下では全く与えてない場合と比較して、根の波数と波長が半減した。これより、エチレンは直接的に根の波型のリズムを調節することができるが、調節の程度は栄養依存的であるということを示唆する。また、表皮細胞の走査型電子顕微鏡観察によって、根の波型やねじれは細胞列のねじれに非依存的に起こるということが示唆された。今後は栄養分とスクロースの影響とエチレンシグナル伝達との関連性を明らかにし、また培地表面の特性の違いによる影響の違いの有無を証明するする必要がある

興味のある方は、是非ご参加下さい。  松田香織