2003年度 後期1415回 細胞生物学セミナー

日時:11月25日(火)16:30~

場所:総合棟6階 クリエーションルーム

Cell Wall Integrity Controls Expression of Endoxyloglucan Transferase

in Tabacco BY2 Cells

Naoki Nakagawa and Naoki Sakurai (2001)

Plant Cell Physiol. 42(2):240-244

 

植物細胞や真菌、またバクテリアの細胞は、細胞膜の外側に細胞壁が発達している。細胞壁は細胞の形態を決める。また細胞壁は、細胞の膨圧を物理的に支え、強度を与えている。また、細胞壁合成は細胞の成長と環境要因に影響を大きくうけ、その過程によって制御されている。酵母では、細胞壁の合成、構築は MAP キナーゼの一種 (Mpk1) によって制御されていることがわかっている。酵母では、細胞壁の健全性がシグナルとして、シグナル伝達経路を制御している。そして、細胞壁関連遺伝子、酵素群の調節がおこる。結果、細胞壁は安定化される。このように、酵母は「細胞壁の状態をモニターする仕組み」によって、酵母は細胞壁を安定に保ち、外部環境に適応していると考えられている。著者らはこれと同じような機構が、植物細胞にも存在するのではないかと考えた。そこで、著者らは、タバコBY2細胞の細胞壁を欠失させることによって、細胞壁代謝に関わる遺伝子の発現が調節されるかどうかを調べた。

本実験では、キシログルカン分子繋ぎ換えを触媒する酵素EXGT、セルロース合成酵素CesAの遺伝子発現の変化を調べた。タバコBY2細胞細胞壁をDCB(セルロース合成阻害剤)またはセルロース分解酵素で処理し、細胞壁強度を著しく低下させるた。すると、EXGT遺伝子の発現が減少した。一方、CesA遺伝子の発現に変化はなかった。また、DNA合成阻害剤であるアフィジコリンで細胞を処理すると、EXGT遺伝子の発現減少が見られなかった。このことから、細胞壁強度の減少の結果、EXGT遺伝子発現が抑制されたと示唆された。

次に、セルロース分解酵素を加えてからのEXGT遺伝子発現量のタイムコースを調べた。すると、発現量は1時間変化がなかった。2時間を過ぎると徐々に発現が減少した。このことから、細胞壁欠如は、EXGTmRNAの分解に関わる他の遺伝子産物の転写と蓄積を誘導する。そして、この遺伝子産物の蓄積の結果、間接的にEXGT遺伝子発現量を減少させたのではないかと仮説を立てた。この仮説を検討するために次の実験を行なった。RNAポリメラーゼ阻害剤のアクチノマイシンを細胞に加えた後、さらにセルロース分解酵素で処理した。そして、EXGT遺伝子の発現を調べた。その結果、アクチノマイシンを加えた細胞ではセルロース分解酵素の影響は取り消され、EXGT遺伝子発現の減少がおこらなかった。この結果は仮説を支持するものである。

興味をもたれた方は、ぜひご参加ください。 善光 千晶