2004年度  前期第1,2回   細胞生物学セミナー

日時:4月20日(火) 16:30〜

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

Immunocytochemical localization of polygaracturonase

during tracheary element differentiation in Zinnia elegans

Jin Nakashima, Satoshi Endo, Hiroo Fukuda(2004)

Planta 218: 729-739

 

 ペクチンは細胞壁の主要な構成糖の1つであり、生長期における双子葉植物においては乾燥重量の3分の1近くを占める。そのため伸長や肥大、分化など細胞壁のダイナミックな変化にはペクチン質の合成や分解の時間的、空間的な調節が不可欠であると考えられる。ペクチン分解酵素の1つであるポリガラクツロナーゼ(PG)は、フルーツのライプニングや花粉形成時にその活性が高まる事とともに、若い芽生えや茎、根においても働いている事が知られている。そのため、生体内でのPGの働きを知る事は、ペクチンの分解と植物の生長、分化との関係を調べる上で、重要なステップになると考えられる。

 水分の通路となる道管、仮道管といった管状要素は、縦に連なった細胞の細胞壁が二次肥厚を起こし木化するのに従って、原形質と一次壁が消失していくことによって形成される。ヒャクニチソウの単離葉肉細胞から管状要素への培養系を用いた研究により、道管要素分化の過程でペクチン質が多く分解される事が明らかにされており、また発現が高まる遺伝子として、PGの一種であるZePG1 cDNA断片がクローニングされていた。

 今回、ZePG1 cDNA断片の融合タンパク質を大腸菌タンパク質発現系にて調製し、ウサギに免疫する事によってZePG1に対するポリクローナル抗体を得た。この抗体を一次抗体として、金コロイド微粒子で標識した二次抗体を作製した。そして金コロイド法を用いて、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡による、ヒャクニチソウ管状要素誘導中におけるZePG1の、細胞レベルでの局在観察を行った。光学顕微鏡による観察では、このシグナルは管状要素分化中の細胞の二次肥厚の部分で強く見られ、管状要素に分化していない細胞においても伸長部位でわずかに見る事が出来た。これは、ZePG1が二次肥厚の形成に強く関与し、また、細胞伸長に関わる事を示唆している。電子顕微鏡による細胞内局在の観察では、シグナルはやはり二次肥厚部分に密であり、細胞質の部分においてはゴルジ体と液胞に多いことが分かった。そして、この二次肥厚のシグナルは分化の完了に近づくに従って減少していく事も明らかになった。同時に、分解された多糖を特異的に染色するPATAg法を行ったところ、同様に二次肥厚の部分が染色され、ZePG1の局在がペクチンの分解をもたらしている事実が強く支持された。さらにヒャクニチソウの若葉を材料に、ABC法を用いて生体内でのPGの局在を調べた。この場合も同様に、未成熟な道管の二次肥厚部分へのシグナルの局在が見られたが、同一切片のUV light観察によって、それらはリグニン化以前に特に顕著である事が分かった。この事は、ZePG1の働きの一つが、リグニン化の前段階でのペクチン分解である可能性を示唆している。さらには、篩部へのZePG1の局在も見ることができた。ZePG1は管状要素のみならず、発達段階において広く発現し、ほかのPGファミリータンパクとともに植物の生長に関わると考えられる。   興味のある方はぜひご来聴ください。   土屋 紀之