2004年度 前期 第3・4回 細胞生物学セミナー
日時:4月27日(火)16:30~
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
The YABBY Gene DROOPING LEAF Regulates Carpel
Specification and Midrib Development in Oryza sativa
Takahiro Yamaguchi, Nobuhiro Nagasawa,a Shinji Kawasaki, Makoto Matsuoka,
Yasuo Nagato, and Hiro-Yuki
Hirano
The Plant Cell, Vol. 16, 500–509, February 2004
花の発生の遺伝的制御機構は、シロイヌナズナやキンギョソウなどの双子葉モデル植物によって明らかにされ、ABCモデルという形で広く一般に認められている。一方、単子葉植物の中では、比較的よく遺伝学的 ・分子生物学的研究が進められているのは、イネ(Oryza sativa )とトウモロコシ(Zea mays )である。しかし、単子葉植物における花の発生のメカニズムの理解は十分とは言えず、ABCモデルがそのまま適用できるかどうかも明らかではない。
著者らは、単子葉植物の花の発生分化の解明を進めており、すでにイネ(Oryza sativa )からdrooping leaf (dl )変異体を単離している。この変異体は、葉の中肋が欠失するため葉身が直立せず、「垂れ葉」となる特徴を持っている。今回の実験では、垂れ葉であり、かつ花器官にも異常のある変異体(dl-sup1,
dl-sup2, dl-sup3, dl-sup4, dl-sup5 )が新しく単離された。これらは相補性検定の結果から、対立遺伝子の変異体であることが分かっている。
最初に、これらの変異体の表現型について、心皮・花芽分裂組織・葉の3箇所に注目して観察が行なわれた。その結果、DL遺伝子の機能喪失変異体のdl-sup1と、変異が弱いあるいは中間のdl 変異体は、心皮以外の花器官が全く正常であった。このことは、DLが心皮の形質を制御していることを示している。ABCモデルを構成するホメオティック遺伝子は、隣接する2つのwhorlで機能するため、それらの遺伝子に変異が起きると2つのwhorlの器官に異常が生じる。しかし、dl変異体は心皮のみが異常であった。この点で、DLは今まで知られているホメオティック遺伝子とは性質が異なると考えられる。次に、変異の弱いあるいは中間のdl
変異体に、未分化の不定細胞群や多様な形態の心皮が確認された。これは、DLが花芽分裂組織を調整していることを示唆している。そこで、イネの分裂細胞に存在する不定細胞の分子マーカーのOSH1 を用いて、dl-sup1におけるOSH1 の発現パターンをin situ ハイブリダイゼーション法によって調べた。その結果、whorl4に雄蕊が発現した後もその中央部にOSH1
が発現し続けた事から、DLは花芽分裂組織の分化の制御に関与していると考えられる。次に、dl 変異体の「垂れ葉」は中肋の構造の欠損が原因であるが、この欠損の原因を調べるため、顕微鏡観察によって野性型とdl-sup1の葉身の横断切片の断面図を比較した。その結果、dl-sup1は中肋を構築している細胞(葉の向軸側から背軸側に連なった細胞)数が野生型の1/3であることが分かった。このことから、中肋の欠損は中肋を構成している特定の細胞の細胞分裂が不十分であったことが原因だと考えられる。
続いて、DLの構造と機能を明らかにするためにDL変異の原因遺伝子をポジショナルクローニングにより単離した。その結果、DL
はZinc-
finger domainとYABBY domainを持つことが明らかになり、YABBY遺伝子ファミリーに属し、転写因子をコードすることが分かった。また、シロイヌナズナのYABBY遺伝子のなかで、CRABS CLAW (CRC )に最も近縁であることが分かった。
さらに、花器官の発生におけるDLの転写産物の空間的・時間的な発現領域の局在を調べるため、in situ ハイブリダイゼーション法を行った。これらの発現パターンやDL変異体の表現型の結果から、イネにおいてはDLが心皮の形質を決定するホメオティック遺伝子であり、これが中肋の発達にも関与していることが示された。
興味のある方は是非ご参加ください。 川田 梨恵子