2004年度  前期第3,4回  細胞生物学セミナー

日時 : 4月27日(火) 16:30〜

場所 : 総合研究棟6階 クリエーションルーム

Growth and lignification in seedlings exposed to

eight days of microgravity

Cowles J. R., Scheld H. W., Lemay R. and Peterson C. (1984)

Ann. Bot.  54 , supplement 3, 33-48

 

 植物は重力環境下にある地球上で進化し、また高等植物は重力に対して垂直に生長するために、セルロースやリグニンなどの構造高分子を大量に合成する経路を発達させた。この二つの高分子のなかでもリグニンはより不活性な物質で、この合成は重力によって媒介されていると考えられている。

 NASAのスペースシャトル計画であるSTS-3は、スペースシャトル計画が開始されてから3回目となる試験飛行で、約8日間という比較的短いフライト期間であった。このフライトとその後のシャトル実験で使用するために、Plant growth unit  (PGU) は造られた。この初期のフライトでの植物実験の目的は (1) 宇宙で植物の生長を維持するために作られたPGUの機能と効果をテストすること  (2) リグニンの生合成における微小重力の影響を測定すること (3) 宇宙飛行の状態にさらされた若い芽生えの全体にわたる生長と発達を観察することであった。材料には大量のリグニンを合成する能力をもった裸子植物であるマツ(Pinus elliotti  Engelm.)と典型的な双子葉類と単子葉類である緑豆(Vigna radiata (L.) Wilczek)とオート麦(Avena sativa L. cv. ‘Garry’)がそれぞれ選ばれた。限られたスペースと短いフライト期間であるということからマツは4日芽生えが用いられ、オート麦と緑豆はフライト中に種子から育てられた。

 フライトしている間にPGUで得られた温度などのデータはジョンソン宇宙センターにすぐさま転送され、コントロールのPGUのデータと比較された。フライト中PGUは正常に作動し、芽生えの生長をサポートした。地上コントロールとして用いたPGUも同様に機能した。フライトPGUの緑豆とオート麦の種子の発芽率はコントロールに比べても遜色のないものであった。194時間のフライトを終えて地上に戻ってきた植物体は、すぐさま形態観察、写真撮影、気体採取と分析の3つの作業が行われ、その後リグニンとタンパク質の含量の計測、リグニンの生合成経路の二つの酵素であるフェニルアラニンアンモニアリアーゼ (PAL)とペルオキシダーゼの活性について分析された。全ての植物種においてフライトした芽生えはコントロールに比べ丈が低くなった。緑豆とオート麦の根の25-40%は上向きの成長をし、緑豆の芽生えは方向感覚が混乱しているようであった。また、フライトした緑豆はコントロールと比較して有為にリグニン含量の減少を示し、PALとペルオキシダーゼの活性はフライトしたマツの芽生えで有意に減少した。この結果は微小重力下でリグニン合成が減少するという仮定を広く支持するものである。

 

興味のある方は是非ご参加下さい。    玉置 大介