2004年度 前期7,8回 細胞生物学セミナー

日時:5月18日(火)16:30~

場所:総合棟6階 クリエーションルーム

The Galactose Residues of Xyloglucan Are Essential to Maintain Mechanical Strength of the Primary Cell Walls in Arabidopsis during Growth

Maria J. Pena, Peter Ryden, Michael Madson, Andrew C. Smith, and Nicholas C. Carpita

Plant Physiol. Vol. 134, 2004, pp.443-451

 

キシログルカンは、双子葉植物の細胞壁中に普遍的に存在する多糖分子である。細胞壁中でキシログルカンはセルロースミクロフィブリル間を架橋している。そして、細胞壁の物性に影響を与える。キシログルカンは、主鎖であるβ-1,4-グルカンのグルコース残基が4残基の繰りかえし単位となっている。その還元末端側から1番目の残基は置換されず側鎖を持たない。残りの2~4番目の残基は、キシロースを側鎖にもつ。キシロース側鎖にはさらにガラクトースやフコシルガラクトースが結合していることが多い。このキシログルカン側鎖の構造は、セルロースミクロフィブリルとの相互作用に影響をあたえることが予測される。また、キシログルカンの分解や繋ぎ換えを触媒する酵素との結合性にも影響を与えると予測される。しかし、細胞壁において、キシログルカン側鎖のはたらきは、まだ明らかにされていない。そこで本実験で著者らは、キシログルカンの側鎖構造に変化が生じる変異体を用い、キシログルカン側鎖構造の変化が細胞壁に与える影響を解析した。

実験には2つの変異体、mur2mur3をもちいた。mur2はキシログルカン特異的フコシル転移酵素遺伝子に変異が生じ、キシログルカンのフコシル化がおこらない変異体である。一方、mur3はガラクトシル転移酵素遺伝子に変異が生じている。そのためmur3は、キシログルカンオリゴマーの、還元末端に一番近いキシロースのガラクトシル化がおこらない変異体である。著者らは最初に、これら変異体の胚軸を走査型電子顕微鏡によって観察した。すると、mur3において、胚軸基部の表皮細胞が膨張しており、胚軸基部の直径が増加していた。次に、胚軸基部の横断切片を作成し、表皮細胞と皮層細胞の大きさを測定した。すると、WT、mur2と比べ、mur3では、どちらの細胞も直径が著しく増加していた。そこで、胚軸の張力を測定したところ、mur3では張力がWTの半分、mur2はわずかに減少していた。これらの結果から、側鎖の構造が張力の維持に重要であり、特に、側鎖のガラクトシル化が張力の維持に重要であることが明らかになった。さらに、キシログルカンとセルロースの結合性、キシログルカン分子量分布をWTと比較したが大きな違いはなかった。しかし、キシログルカンの繋ぎ換えに働く酵素であるXET(xyloglucan endotransglucosylase)の活性を分析した結果、ガラクトシル化されたキシログルカンは、XET活性を高めることがわかった。このことから、XETには細胞壁の張力を維持する働きがある可能性が示唆された。

興味をもたれた方は、ぜひご参加ください 善光 千晶