2004年度 前期第9回 細胞生物学セミナー

日時:6月1日 (火) 17:00〜

場所:総合研究棟6F クリエーションルーム

Organellar relationships in the Golgi region of the pancreatic beta sell line, HIT-T15, visualized by high-resolution electron tomography

Marsh B. J., Mastronarde D. N., Buttle K. F., Howell K. E., and Mclntosh J. R. (2001)

Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98: 2399-2406

 

 蛋白質と脂質の分類および輸送におけるゴルジ構造と機能の相互関係を明らかにするために、これまでの光顕と電顕レベルでの免疫標識を用いた手法では、以下述べるような問題がある。1.光顕ではオルガネラ全てを識別する解像力が得られない。2.多くの生物学的顕微鏡データは、薄片に切られた試料の2D画像から得られており、これを3D再構築する場合連結部分の詳細なデータが失われてしまう。3.従来の化学固定では、ゴルジのように急速に変化するオルガネラの不安定な構成成分や動的現象が正確に保存されているとは考えがたい。

 そこで今回筆者らは、以下のような実験系を用いた。細胞外グルコースに対しインスリン分泌能を有する膵臓β細胞HIT-T15細胞系を試料とし、10-20msec以内で全ての細胞活動を固定する加圧凍結を行い、その後凍結置換を行った。この方法を6nmの解像力を持つ電子顕微鏡観察と併用し、3D再構築ソフトウェア“IMOD”を用いた細胞電顕トモグラフィーによって、HIT-T15細胞を再構築した。この3.1×3.2×1.2μm3の体積をもつ再構築物を、空間統計学に基づく空間密度分析によって定量的に分析することで、各オルガネラ間や微小管とオルガネラ膜間の相互作用の現場を厳密に明らかした。

 その結果この再構築物のボリューム中に、7つの槽を持つリボン様オルガネラのゴルジ、単一で連続した区画の小胞体、微小管、ミトコンドリア、種々の小胞、エンドリソソーム区画として大まかに分類されたゴルジに近接するtubulo-vesicular構造の集団が示された。小胞やエンドリソソーム区画の物体はその形態やサイズ、そして構造上に明確で分類の指標となり得るクラスリンが視認できるか否かによってさらに下位分類された。こうして明確に示されたモデルによってゴルジの膜から突き出した細長い突起や多数分岐した小胞体各部分、微小管それぞれの配向や進路が、また空間密度分析によって定量された各オルガネラ間の構造上の結合の有無が明らかにされ、これらのデータと今日までの膜輸送経路に関する化学データを統合することで、嚢の成熟や膜から突き出したまたは分岐したものを介しての輸送、そして小胞の介在する輸送のメカニズムがゴルジ膜輸送の働き全てを担っていることを示唆した。

 これらのデータは調節性分泌細胞のゴルジ領域における、オルガネラの複雑な相互関係を明らかにした。高解像技術とin situにおいて特定の高分子の局在を3D内に特定する方法を組み合わせることにより、将来、調節性分泌およびエキソサイトーシスにおける時間的・空間的関係を明らかにし、哺乳類細胞におけるこれらの現象に関する新しい仮説の検証を可能にすることと考えられる。

 

 皆様のご来聴を心よりお待ち申し上げております。 須田甚将