2004年度 前期第11,12回 細胞生物学セミナー
日時:6月15日(火)16:30~
場所:総合棟6階 クリエーションルーム
Plant regeneration from hypocotyl protoplasts of
red cabbage (Brassica oleracea) by using nurse cultures
Li-Ping Chen, Ming-Fang Zhang, Qiu-Bing Xiao,
Jian-Guo Wu & Yutaka Hirata
Plant Cell, Tissue and Organ Culture 77 : 133-138,
2004.
キャベツ(Brassica oleracea)は以前の研究からプロトプラスとからの植物体再生が行われていたが、その過程におけるコロニー形成の培養条件は種内においてもかなり異なっていた。今回の実験で著者らが用いた赤キャベツ(var.capitata
L.)のプロトプラスと培養はこれまでのキャベツの研究で用いられた培養条件ではうまくいかず、培養条件(植物ホルモン組成)を色々変えることでコロニー形成を試みてきたが、6〜10細胞で分裂が止まってしまいそれ以降の分裂は起こらなかった。また複数回の分裂後ネクローシスを起こすこともあった。今回の実験で、著者は、赤キャベツのプロトプラスとの継続的な分裂を維持するために、同じアブラナ属であるザーサイ(Brassica
juncea Coss. var.tumida Tsen et lee)のプロトプロストを用いた新しい保育培養(nurse culture)を行うことにした。保育培養とは、増殖させようとする細胞が少数すぎたり、或いは特定の物質を必要とするため単独では増殖しにくい時に別の良く増殖する細胞と共存させて培養し、その細胞の代謝物質を利用して目的とする細胞の増殖をはかるものである。また、今回の実験では、種、属、科内で標準的な培養条件を確立することを目的に、赤キャベツの栽培種3種を材料として用いた。赤キャベツの栽培種とザーサイは、滅菌処理した種子から無菌的な条件で育てた芽生えを使用した。ザーサイでは子葉部分を用い、酵素液で処理してプロトプラストを取り出した。赤キャベツではクロロプラストが少なく細胞融合の時によい目印となる胚軸を用いた。酵素液処理することによって胚軸からプロトプラストを取り出したがその条件は3〜5日芽生えを用いた場合が最も分裂率の良いプロトプロストを取り出せることが分かった。取り出した赤キャベツプロトプラストを培養するのに2つの保育培養法が用いられた。一つ目は、赤キャベツプロトプラストを含んだ寒天培地をザーサイのプロトプラストを含んだ寒天培地上に切り出して培養する方法。二つ目は赤キャベツとザーサイを別のフラスコ内で別々に3日間培養し、それを穏やかに混合した後同量の寒天培地をそそいで培養する方法である。結果を見ると一つ目の方法では顕著な結果は得られず、二つ目の方法ではコントロールの赤キャベツ単独のものがカルスを形成しなかったのに比べ栽培種Ruby
ballはプロトプラストの割合(赤キャベツ:ザーサイ)が1:1,1:2の時に小カルスの形成率がそれぞれ18.3%と19.9%となった。また他の2つの栽培種でも同様の結果が得られた。得られた小カルスを培地に植えかえると植物体まで再生させることができた。親植物と再生植物の染色体を観察しても染色体に変化がなく、赤キャベツとザーサイのプロトプラスト同士で自発的に融合した植物ではないことが確認された。また温室に移した植物体にも形態に特別な変異は今のところ見られていない。今回の実験では3つの栽培種プロトプラストから保育培養を用いることで同じ培地、同じ培養条件で、うまく再現性をもって植物体が再生された。この方法を用いた植物体再生は様々な遺伝子型の植物に適用できるだろう。
興味のある方は是非ご参加下さい。 伊東 敦史