2004年度 前期第11,12回 細胞生物学セミナー

日時:6月15日(火)16:30〜

場所:総合研究棟6F クリエーションルーム

Involvement of plasma membrane Redox activity and calcium homeostasis in the

UV-B and UV-A/blue light induction of gene expression in Arabidoposis

 Long, J. C., Jenkins, G. I. (1998)

Plant Cell 10: 2077-2086

 植物は光に敏感に反応する。中でもUVや青色光は植物の遺伝子発現や発達に影響がある。例えば、光屈性、気孔の開口,細胞伸長、開花時期、その他様々な遺伝子の発現への影響などが挙げられる。これらの反応を仲介する光受容体はいくつか同定されていて、UV-A(320~390nm),および青色光の反応を仲介する光受容体としてはクリプトクロム(CRY1)が知られている。CRY1は胚軸および葉柄伸長の抑制、子葉の拡大促進、アントシアン色素の産生などに関係している。このように光受容体は同定されているが光受容から反応までの情報伝達経路はまだはっきりとはしていない。そこで本実験ではUV-BおよびUV-A/青色光で発現誘導されるカルコンシンダーゼ(CHS)とフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)の遺伝子に関するシグナル変換過程を様々な阻害剤を用いて調べた。

 まず、電子伝達系の阻害剤として電子受容体であるpotassium ferricyanideとフラボプロテインの拮抗剤であるDPIのCHSとPAL発現への影響を調べた。すると、どちらの阻害剤ともUV-BとUV-A/青色光によるCHSとPALの転写産物の蓄積を抑制した。続いてCa2+のイオノフォアであるA23187で発現誘導されるTOUCH3(TCH3)遺伝子にも注目した。DPIとferricyanideはイオノフォアなしでもTCH3の発現を誘導した。このことからDPIとferricyanideは細胞質カルシウムイオン濃度を上昇させていた可能性が考えられた。ここで重要なのはDPIとferricyanideが電子伝達に影響してCHSとPALの発現を阻害しているのか、細胞質カルシウムイオン濃度の上昇によって阻害しているのかはっきりさせることである。そこで、CHS発現に対して細胞質カルシウムイオン濃度の上昇が及ぼす影響を調べたところ、CHSの発現は阻害されなかった。つまり、電子伝達を通じてDPIとferricyanideはCHS発現を阻害していた。またイオノフォアによるTCH3の発現誘導は、UV-B,UV-A/青色光で強く抑制された。最後に、細胞質カルシウムイオン濃度がUV-B,UV-A/青色光のシグナル変換に関わっていると考えられるために、Ca2+-ATPaseの阻害剤であるerythrosin B(EB)とW-7で実験を行った。結果、EBはUV-A/青色光でのCHS発現誘導を阻害し、W-7はUV-BでのCHS発現誘導を阻害した。

 これらの結果と今までの研究から、UV-B およびUV-A/青色光によるCHSとPALの発現誘導には原形質膜のレドックス過程とそれに伴っておきるカルシウムイオンの動きが必要で、光受容によって始まる原形質膜のレドックス活性は細胞内ストアに貯まっているカルシウムイオンの動きの制御に関係があり、CHS の発現誘導に必要なカルシウムシグナルを引き起こすことが示唆された。

興味をもたれた方は、ぜひご参加下さい。 楢本 克樹