2004年度 前期第14回 細胞生物学セミナー
日時
: 6月29日(火) 17:00〜
場所
: 総合研究棟6階 クリエーションルーム
BRITTLE CULM1, which encodes a COBRA-like protein,
affects the mechanical properties of
rice plants
Li Y., Qian
Q., Zhou Y., Yan M., Sun L., Zhang M., Fu Z.,
Wang Y., Han B.,
Pang X., Chen M., and Li J. (2003)
Plant Cell. 15 , 2020-2031
作物学において植物の機械的な強度は重要な特性であると考えられている。植物の機械的な強度を制御する分子機構を理解するために、これまでにシロイヌナズナや大麦などにおいて、機械的な強度に欠陥のある変異体が単離され、その変異体を用いた多くの研究が報告されてきた。イネ (Oryza sativa) においても、少なくとも6つのbritte culm (bc) 変異体が報告されており、近年では 稈と葉、葉鞘が堅くてもろいという特徴を持ったindica
種のイネからbc1の対立遺伝子変異体であるbc1-2 が単離された。そこで本研究において筆者らは、イネのbc 変異体の徹底的な特徴づけとBC1遺伝子の空間的・時間的な発現パターンの解析、BC1
遺伝子のマップベースクローニングを行った。
まずイネのbc1 とbc1-2 の表現型について徹底的な解析を行った。bc1-2 は見た目は野生型のイネと区別はつかないのだが、bc1-2 の稈および葉の強度は野生型に比べそれぞれ43%と52%ほど低下し、葉の伸長の割合もおよそ50%ほど低下した。また走査型顕微鏡を用いて厚壁細胞の細胞壁の形態を調べたところ、野生型では激しく肥厚しているのに対し、bc1-2
の細胞壁は著しく薄くなっていた。そこで野生型とbc1-2 の細胞壁の組成について 比較したところ、bc1-2 では野生型に比べセルロース量がおよそ70%ほど減少し、リグニン量がおよそ30%増加していた。これらのセルロースとリグニン量の変化は、組織化学的な染色の観察からも確認された。またガスクロマトグラフィを用いて細胞壁の単糖類の組成についても比較したところ、bc1-2
においてグルコース含量が有意に減少しており、それとは対照的に、キシロースとアラビノースの含量は増加していた。
次に、ポジショナルクローニングによりBC1が第3染色体上の3.3-kbの区間中に存在することがわかった。この領域にはオープンリーディングフレーム (ORF) が1つだけ存在し、そのORFはシロイヌナズナのCOBRAに非常によく似たタンパク質をコードしていることが明らかになった。そのORFは相補性検定により、BC1
と一致することが確認された。またDNAとタンパク質のデータベースからイネのゲノム全体で9つのBC1-like 遺伝子 (BC1L)が同定された。これらのBCL1と
BC1 が含まれるBC1 ファミリーとシロイヌナズナCOBRAファミリーはCOBRAファミリーという1つのスーパーファミリーに属するということがわかった。
さらに、in situ ハイブリダイゼ−ション法を用いてBC1の空間的・時間的な発現の正確なパターンを得ることができた。BC1は主に発達中の厚壁組織と維管束で発現していた。
これらの結果より、BC1 が単子葉類の機械的な強度を制御する遺伝子で、機械組織の細胞壁の合成において重要な役割を果たしていることが示唆された
興味をもたれた方は是非ご参加ください。 玉置 大介