2004年度 前期 第1819回 細胞生物学セミナー

日時:7月13()  16:30

場所:総合研究棟6階  クリエーションスペース

 

Two Discrete cis Elements Control the Abaxial Side–Specific Expression of the FILAMENTOUS FLOWER Gene in Arabidopsis

 

Keiro Watanabe and Kiyotaka Okada

The Plant Cell, Vol. 15, 2592–2602, November 2003, www.plantcell.org

 

茎頂分裂組織の側部に形成される、ガク片,花弁,雄蕊,心皮といった側生器官は、表裏と周辺部に特異な構造を持っている。これらの構造、位置の決定、位置特異的な成長には、花芽分裂組織を基準とする向背軸の存在が強く反映されている。原基の形成予定領域において、茎頂分裂組織に対して近い(向軸側)、遠い(背軸側)といった位置が、どのような因子によって決定されているのかは未解明である。しかし、向軸側が表皮で覆われたフィラメント上の葉をつけるphbphv各突然変異体は、STARTドメインに変異をもつことが分かっている。STARTドメインとはsteroidgenic acute regulatry protein (StAR)-related lipid transferの略で、植物から動物まで幅広い種で保存されており、脂質の細胞内輸送や細胞膜ラフトにおける信号伝達に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。これらの脂質結合ドメインを持つタンパクは、様々なオルガネラや細胞内部位における、物質輸送、分泌、細胞運動などの生理応答を、脂質結合領域を介して制御していると考えられる。確証は得られていないが、このSTARTドメイン、つまりステロールが向軸側を決定するシグナル因子として働き、PHB,PHV各蛋白質がこのシグナル因子の受け手となって、同時に自分自身の発現を正に制御しているのではないかとみられている。一方、背軸側の位置決定に関しては、その情報を伝達するような因子の存在は確認されていない。

花芽形成にかかわる遺伝子の一つであるFilamentous FlowerFIL)遺伝子は、in situを用いた解析から、葉,花芽,花器官といった側生器官の背軸側領域で発現することが確認され、その分化に関与することが分かっている。著者らは、このFIL遺伝子に着目し、以下に示した実験により背軸側決定に関する制御機構の解明を試みた。

@      GFPを用いたFIL遺伝子のプロモーター解析から、ステージ0の若い花器官原基の先端部の背軸側で出現したGFPシグナルが、一度ステージ2で消失し、新たに形成されたガク片原基の背軸側で再現する、というユニークな発現パターンが観察された。これは、花房の付属器官から花芽分裂組織へと移行する突出転移と一致した。

A      fil変異体においてFIL遺伝子発現を調べた結果、強いGFPシグナルが葉の背軸側で検出された。これより、fil変異体では向背軸が反映されていないこと、側生器官の背軸側の正のフィードバックを通して直接的に発現が維持されていること、が示唆された。

B      FIL遺伝子の5’側の調節領域が欠失したトランスジェニック植物を造り、FIL遺伝子の発現パターンを調べた。この結果、向軸側のFIL発現を抑制する役割を担うエレメント(-1743から-1763)と、向背軸のFIL発現を請け負うエレメント(-1547から-1742)の2つの関与が見だされた。また、これらとは別に、FIL遺伝子の発現の強度を支配するエレメントの存在が示唆された。

C      背軸側の特異的発現をコントロールするcis-Actingの塩基配列を決定するため、-1743から-1763のfp-6プロモーターに転換を起こしたトランスジェニックシリーズを造り、GFPシグナルの発現を調べた。結果、-1737から-1748の12bp領域が向軸側のFIL遺伝子発現を抑制すること、また-1547から-1748間の12bp領域が向軸側のFIL遺伝子発現を抑制することで、背軸側での特異的な発現を引き起こすことが示唆された。

以上の結果から、FIL遺伝子の背軸側に特異的な発現は、2つの異なるcis-Acting エレメントによって茎頂から原基へと伝達される位置情報を、両向背側が受け取ることでコントロールされていると考えられる。また、PHBPHV遺伝子が向軸側の発現を抑制することで、背軸側のFIL発現が維持されている可能性も見いだされた。

 

興味をもたれた方は、是非ご参加ください。                        川田 梨恵子