2004年度  前期第20,21回   細胞生物学セミナー

日時:7月20日(火) 16:30〜

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

The arabidopsis Rab GTPase RabA4b localizes to the tips of growing root hair cells

M.L.Preuss,J.Serna,T.G.Falbel,S.Y.Bednarek,E.Nielsen (2004)

The Plant Cell16: 1589-1603

 

 真核生物の細胞内にはさまざまなオルガネラが存在するが、それぞれのオルガネラで機能するタンパク質が正確に運ばれる事によって、細胞の機能と秩序が維持されている。小胞体、ゴルジ体、エンドソーム、リソソーム、細胞膜などの分泌系のオルガネラを結ぶ物質輸送は小胞輸送によって行われ、特にトランスゴルジ網(TGN)以降は複雑な小胞輸送網が形成され、さまざまな生理機能の発現に重要な役割を果たしている。これらのネットワークの制御には、正確な積み荷タンパクの選別、輸送、受容側オルガネラ膜との融合が必要である。このうち選択的な小胞融合は、それぞれの膜上に存在するSNARE同士の複合体形成に特異性があり、選択性の基礎になっていると考えられている。だが、trans-SNARE複合体のみではその多様な選択性を説明できない。そこで、広く小胞輸送に関わる低分子量GTPaseの一種であるRabファミリータンパク質が、小胞の繁留や融合に働くタンパク質複合体をリクルートする事によって、特異的なtrans-SNARE複合体の形成に寄与すると考えられている。

 根毛は表皮細胞の突起であり、その形成には極性を持った小胞輸送のメカニズムが存在すると考えられる。アラビドプシスに広く発現するRab4bは根毛でもその発現が見られる。そこで、極性決定や形態形成における小胞輸送の過程を分子レベルで理解するために、根毛でのRab4bの局在を調べた。すると、根毛の頂端部にRab4bの局在が見られた。この局在は、根毛の形成初期の細胞の隆起部分には見られず、先端成長と同時に見られるようになった。エンドサイトーシスでの働きが知られているRab2aの局在は見られなかったこと、伸長生長の終わった成熟した根毛では見られなかったことから、これは細胞膜への、極性的な分泌小胞の輸送によるものだと考えられた。植物細胞の先端生長にはアクチンフィラメントが関わっている。そこで、このF-actinの重合を阻害するlatrunculinBで処理したところ、Rab4bの局在は細胞全体に乱れ、根毛の伸長が停止した。latrunculinBを取り除く処理を行いしばらくすると、再びRab4bの先端部分での局在が見られるようになり、根毛の伸長も再開した。また、Rab2aの局在には変化はなかった。一方、F-actin同様に小胞輸送に関わるとされる微小管を分解するoryzalinで処理した場合には、Rab4bの局在に変化は見られなかった。最後に、根毛に変異のあるミュータントを用いて、Rab4bの局在を調べた。これらの変異体では、先端部分での局在は見られないか、その局在が野生種と異なっていた。さらに、変異の見られない根毛では、その局在も正常であった。Rab4bは根毛形成において、膜タンパクの輸送を制御し、極性を持った細胞壁成分の分泌に関わること、さらにそれはRab4bがアクチンのリモデリングに関わることによって、細胞骨格の制御による小胞の融合に寄与するためである可能性が示唆された。

                  興味のある方はぜひご来聴ください。   土屋 紀之