2004年度 後期 第3・4回 細胞生物学セミナー
日時:10月5日(火) 16:30~
場所:総合研究棟6階 クリエーションスペース
Floral homeotic genes are targets of
gibberellin signaling
in flower development
Hao Yu, Toshiro Ito,
Yuanxiang Zhao, Jinrong Peng, Prakash Kumar, and Elliot M. Meyerowitz
PNAS,101,7827-7832, MAY 18, 2004
花は、花序分裂組織より分化する花芽分裂組織から形成される。この時、花の発達は花芽運命の決定に伴って開始される。この花芽運命決定にかかわる主要遺伝子であるLEAFY(LFY)は、上流に位置する花成(栄養成長から生殖成長への転換)誘導シグナル調節と下流の花ホメオティック遺伝子のコントロールの双方の調整に関して中心的な役割を担っていることが分かっている。
花ホメオティック遺伝子の組み合わせが各花器官の分化・形成を決定していることが明らかであるのに対して、分化した花器官の成長を維持するメカニズムについては未だ不明な点が多い。これまでの研究から、花ホメオティック遺伝子発現が花の発達の間中見られるのに対して、LFYは花器官が分化するステージ5以降には発現しない。花ホメオティック遺伝子が、花器官の分化と発達維持の双方を調節しているとするならば、発達ステージの後半に見られた花ホメオティック遺伝子発現はLFYを要するメカニズムとは別に、他の因子によって調節されていると考えられる。一方、ジベレリン(GA)が欠乏した突然変異体ga1-3は正常な花器官を持つにもかかわらず、それらの成長が遅いことで知られている。この変異体は花器官の確立と、成長との関係性が顕著に現れている。著者らは、花ホメオティック遺伝子が花の成長にどのように関与するのかを明らかにするため、ga1-3を用いて以下のような実験をおこない、GAシグナル伝達経路との関係性を調べた。
GAは、花の分化・成長を抑制するDELLAタンパク質群(GAI,RGA,RGL1,GL2,RGL3)の働きを抑えることで、一貫した花の発達を促しているとされている。このことから、初めにga1-3とDELLAタンパク質のnull突然変異体を組み合わせて、多重突然変異体を作成し表現型を観察した。するとgai-t6, rga-t2, rgl1-1, rgl2-1を含む組み合わせがga1-3の表現型を復活させることが分かった。これより、RGAとRGL2が相乗的に機能することで花器官の持続した成長が調節されていること、また、DELLAタンパク質の中でも、RGL3を除くGAI,RGA,RGL1,RGL2が花の成長に深く関わることが示唆された。次に、花ホメオティック遺伝子がAGの支配下にあるのかを明らかにするため、GA処理を行った茎頂部における各ABC機能遺伝子の発現レベルを調べた。結果、クラスB機能遺伝子のAP3,PIとクラスC機能遺伝子のAGに発現の増加が見られた。次におこなったin situによる実験から、GAは花が発達している間のB・C機能遺伝子の発現を特異的で維持的なものにしていることが示唆された。また、DELLAタンパク質の中でも、RGAはGAシグナル伝達経路における機能の解明が一番進んでいる。そこで、RGAに注目しga1-3とrga-t2の二重突然変異体に35S::RGA-GRを導入したトランスジェニック植物を作成し、その表現型を観察した。さらに、DELLAタンパク質の多重突然変異体に35S::AG-GRを組み込んだトランスジェニック植物を造った。この表現型の観察から、AG(AGAMOUS)の活性が生殖器官の発達維持に必要であり、このAGが花の発達におけるGAシグナル伝達のターゲットとなっていることが示唆された。
以上の実験から、GAがDELLAタンパクを抑制することで、花ホメオティック遺伝子の発現を促進し、これによって花の発達が維持されていることが示唆された。
興味をもたれた方は、是非ご参加ください。 川田梨恵子