2004年度 後期第9・10回 細胞生物学セミナー

日時:10月26日(火)16:30〜   場所:総合研究棟6F クリエーションルーム

The Arabidopsis SKU5 gene encodes an extracellular Glycosyl phosphatidylinositol-anchored glycoprotein Involved in Directional Root Growth

Sedbrook. J., Carroll. K., Hung. K., Masson. P., Somerville. C.  (2002)

Plant Cell 14:1635-1648

 

 植物の根は、根端の分裂組織と伸長領域において細胞分裂と細胞伸長を制御することで根の成長を制御している。だが、どのようようにして多様な環境刺激に反応しているのか、生理的シグナルはどのように調節されているかについては、ほとんど知られていない。

 今回の実験では、根が方向をもった刺激に対してどのように反応するかを調べるために、T-DNAが挿入されたシロイヌナズナ種子を傾斜寒天培地で生育させ、特異的な根成長をする種子をスクリーニングして突然変異体 sku5 を同定し、実験に用いた。

 野性型の植物を傾斜寒天培地で生育させた場合、わずかに左にねじれるが、sku5 変異体は野性型よりさらに左にねじれ、輪を形成するという表現型を示す。

 寒天培地組成、傾斜の条件を変えて、野性型・sku5の形態観察・測定を行った。根の波は、表皮細胞列がねじれる(回転する)ことによって生じていることが示唆されたが、根がまっすぐに伸長している部位においても表皮細胞列のねじれ(回転)が見られた。

 細胞列の回転は、根端から400μm付近の分裂組織で観察されないが、伸長領域で観察される。このことより、細胞列のねじれは、分裂組織で細胞分裂がねじれてしまったためでなく、細胞伸長が一様に行われないことによって引き起こされると考えられた。

 共焦点顕微鏡を用いて皮層細胞列を細胞レベルで観察・計測を行った。sku5変異体の表皮細胞がねじれている領域では、ねじれの程度は小さいものの皮層細胞でもねじれが観察された。

 また同時に、このsku5変異体の原因遺伝子として、SKU5遺伝子がクローニングされた。SKU5遺伝子は、複合型銅オキシダーゼであるアスコルビン酸塩オキシダーゼとラクカーゼと似た配列を示した。アスコルビン酸塩オキシダーゼは細胞壁に局在する糖タンパク質であり、細胞伸長に影響を及ぼすことが知られている。

 SKU5タンパク質を2種類のグリコシダーゼで処理し、ゲル電気泳動(SDS-PAGE)法を行うことで、このタンパク質はN結合型グリカンによってグリコシル化されていることが示唆された。つまり、SKU5遺伝子はゴルジ体を通過しGPI修飾を受けていることが示された。GFP融合タンパク質を用いた実験より、SKU5は細胞壁と細胞膜に存在することがわかった。

 これらの実験によりSKU5は、特に細胞壁を伸長させることで、ふたつの方向成長過程(放射方向への細胞拡大と縦軸方向への伸長)に影響していることが示唆された。

         興味を持たれた方は、ぜひご来聴下さい       山影 茜