2004年度 後期第11,12回細胞生物学セミナー

日時:112() 18:30

場所:総合棟6F クリエーションルーム

Developmentally regulated dual-specificity kinase from Peanut that is induced by abiotic stresses

Rudrabhatla, P ., Rajasekharan, R(2002)

Plant Physiol 130: 380-390

 

タンパク質のセリン・スレオニン・チロシン残基のリン酸化は酵素活性や多くの細胞内過程を制御する重要な生化学過程である。例えば、オジギソウではアクチンがチロシンをリン酸化されることによって葉柄の屈曲が起きる。これまで植物ではチロシンキナーゼがほとんど同定されていないが、抗リン酸化チロシン抗体を用いて落花生(Arachis hypogaea)の発現ライブアリーをスクリーニングすることによってセリン・スレオニン・チロシン(STY)キナーゼをコードする1.7kDcDNAが単離された。そこで本実験では単離されたキナーゼcDNAから抗体を作成し、植物体のどの部分でSTYキナーゼが作用しているかを調べた。

また、植物の生長は低温や塩分濃度のような非生物的な要因によって影響を受け、そのシグナル変換に関わっている遺伝子がストレスに反応して上昇しているという報告がある。STYキナーゼはそのようなストレス応答性キナーゼと相同性があることから本実験では寒冷刺激、塩類刺激に対するSTYキナーゼの転写レベル、タンパク質の発現レベル、キナーゼの活性レベルの変化を調べた。

 まず、自己リン酸化動態を調べるために様々な時間でin vitro キナーゼアッセイを行ったところ、時間の経過に伴ってリン酸化レベルが上昇した。さらに、リン酸化アミノ酸抗体を用いた実験の結果チロシンがリン酸化されていた。続いてヒストンを基質として加えるとヒストンがリン酸化され、部位としてはスレオニン残基が強くリン酸化された。つまり、STYキナーゼはチロシンを自己リン酸化し、ヒストンに対してはスレオニンをリン酸化するという二つの特異性を持っていることが示された。同時に、STYキナーゼはエノラーゼやカゼインのような物質をリン酸化しないことから、非特異的結合をするようなタンパクではないことが示された。

次にSTYキナーゼ抗体を作成し、その特異性を検証した。その後、作成した抗体によって植物体のどの部分でSTYキナーゼが発現されているかを調べた。免疫組織化学的解析の結果、種子の細胞質にSTYキナーゼが存在していることが分かった。

STYキナーゼ遺伝子の種子発達上の発現はRNAゲルブロッティング解析によって調べた。STYキナーゼmRNAは種子の発達の中間段階である花成から2026日後に最も高いレベルを示し、タンパク質や脂質の合成が高い部位で発現した。このことからSTYキナーゼが代謝産物の貯蔵に関するシグナル伝達に関わっていることが予想された。さらに、様々なストレス環境(寒冷、塩類刺激)によるSTYキナーゼの発現を解析するために、ノザンブロット解析でmRNAの発現をヒストンキナーゼアッセイによってヒストンキナーゼ活性を調べた。その結果、STYキナーゼのmRNAの発現レベルおよびヒストンキナーゼ活性はともに時間に依存して増加した。しかし、STYキナーゼ抗体を用いたタンパク質の量の測定では時間による差は見られなかった。つまり、STYキナーゼは翻訳後に調節を受けていることが示唆された。また、寒冷、塩類ストレスに対するSTYキナーゼの活性化は処理後12h~48hに起きることから、STYキナーゼがストレスに応答する反応の中で初期に働いているのでなく、植物にとって不利な状況に適応する過程で働いている可能性が示唆された。

興味を持たれた方は、ぜひご来聴ください。 楢本 克樹