2004年度 後期 第13・14回  細胞生物学セミナー

日時:11月9日(火)  1530~

場所:総合研究棟6階  クリエーションルーム

Intergeneric somatic hybridization of rice (Oriza Sativa L.) and barley (Hordeum vulgare L.) by protoplast fusion

H.Kisaka, M.Kisaka, A.Kanno, T.Kameya

Plant Cell Reports (1998) 17:362-367

 

 細胞壁を取り去ったプロトプラストは裸の植物細胞であり、電気的処理や化学的処理(PEC,PVA,Dextranなど)により容易に他のプロトプラストと融合させることが出来る。従来の種内および近縁種間に限られる性的交雑と違い性的交雑が不可能であった種間でも雑種を作ることが出来るため、育種家は植物の性的不和合成を克服し、新しい植物を作製する可能性が高まった。現在まで様々な体細胞雑種による雑種植物が報告されてきており、同じ属内にとどまらず属間の雑種植物(ポマト(Melchers,1978)、オレタチ、アラビドブラシカなど)が作製された。今回著者らの実験ではオオムギの寒さと塩分に対する抵抗能力と、環境ストレスに敏感なジャポニカ型のイネをプロトプラストの融合により、低温と高塩分に抵抗能力を持った属間体細胞雑種を作製することを目的とした。今回の実験で用いられたイネ(Oryza sativa)とオオムギ(Hordeum vulgare)は、それぞれの種において体細胞雑種細胞(オオムギ(+)ダイズ、オオムギ(+)ニンジン、イネ(+)ダイズなど)が報告されているが、雑種細胞の多くは植物体にまで再生できなかった。これはイネ科(Grami neae)内においては、葉肉プロトプラストが分化全能性を持たないために雑種植物の作製が困難なためである。

 今回著者の実験ではイネの細胞由来プロトプラストとオオムギの若葉由来葉肉プロトプラストを電気融合することにより体細胞雑種細胞を得た。体細胞雑種の選抜はオオムギ葉肉プロトプラストの分裂頻度の低さとイネ懸濁培養細胞プロトプラストの再生能力の欠如を利用した。その結果融合していないプロトプラストと同じ種同士で融合したプロトプラストからは再生植物が得られなかった。融合細胞由来のカルスには緑色の斑点を形成する物が見られ、結果的に7つの苗条(シュート)を形成した。それらのシュートのほとんどは根を形成することが出来なかったが一つだけ根を形成した。根を形成したシュートは温室にうまく移植することができ植物体まで再生できた。再生された植物の形態は親であるイネの植物体の物と極めて似ており、幾らかの葯をもった穂状花序と花器官を産生したが、夏の高温に影響されやすく、また種子を全く産生せず繁殖力が欠如していた。

 細胞学的な分析により、作製された雑種植物体の染色体を観察するとその植物体はイネ染色体とオオムギ(n=7)由来の大きな染色体14本とイネ(n=12)由来の小さな染色体6本が観察された。一般的に遠縁の種同士の体細胞の組み合わせは染色体の欠損が起こることが報告されているが、今回の実験において、再生植物は両親の染色体のほとんどをもっていることが分かった。DNA分析によるとトリプトファンB遺伝子(trpB)の断片を用いたサザンハイブリッド分析によってイネ特有のバンドとオオムギ特有のバンドが示された。またミトコンドリア(mt)とクロロプラスト(cp)のDNAが同じ方法を用いることによって分析された。その植物体は両親の植物のどちらにも見られなかった新しいミトコンドリアとクロロプラストDNAの配列の再編成が観察され、再生された植物が実際にイネとオオムギの体細胞雑種であることを示していた。

興味のある方は是非ご参加下さい。    伊東 敦史