2004年度  後期第17,18回   細胞生物学セミナー

日時:11月30日(火) 16:30〜
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

 

Visualization by comprehensive microarray analysis of gene

expression programs during transdifferentiation of mesophyll

cells into xylem cells

T.Demura,G.Tashiro,G.Horiguchi,N.Kishimoto,M.Kubo,N.Matsuoka,

A. Miinami,M.NagataHiwatashi,K.Nakamura,Y.Okamura,N.Sassa,

S.Suzuki,J.Yazaki,S.Kikuchi,and H.Fukuda (2002)

Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99: 15794-15799

 

植物が独自に持つ能力として、分化完了し成熟した細胞から植物個体を再生する能力がある。しかし、このような分化転換機構のメカニズムは未だ明らかになっていない。そこで、ヒャクニチソウから単離された葉肉細胞を、維管束を構成する細胞である管状要素へ分化転換させるin vitro培養系を用いて、分化転換および管状要素の形態形成に関わる遺伝子発現調節機構の解析を試みた。このモデルでは、単離葉肉細胞は大きく分けて脱分化、管状要素前駆体の形成、二次壁の形成や細胞死といった3つのステージを経て管状要素へと分化する。培養細胞から8000以上のcDNAをクローン化し、マイクロアレイを作製することにより、これを用いて分化転換段階における遺伝子の発現を詳細に解析した。脱分化の過程では、分化転換に必要である傷害ストレスによって誘導されたと思われるプロテインキナーゼ、転写因子をコードする遺伝子の一過的な上昇が見られた。また直接の傷害ストレス応答とは言えないが、光合成に関係する遺伝子の減少が見られた。脱分化から管状要素の前駆体の形成段階にかけてはタンパク質合成系の遺伝子の発現が上昇した。分化転換の第2段階である管状要素前駆体の形成にはオーキシンとサイトカイニンが必要であるが、ここではオーキシン,サイトカイニン存在下でのオーキシン誘導性の遺伝子の発現が見られた。これは、オーキシン伝達経路が管状要素前駆体の形成に関わる事が示唆している。管状要素前駆体から第三段階にかけては、ブラシノステロイドによって誘導され維管束の分化に関わるとされるHD-ZIP3遺伝子の発現が見られた。これはブラシノステロイド阻害剤を用いた培養系では管状要素が形成されない事からもブラシノステロイドの誘導する遺伝子が管状要素の形成に必要である事を示唆している。また分化の最終段階では二次壁形成に関わると思われるセルロース合成、既存の一次壁の分解に関わると思われる細胞壁成分分解系酵素遺伝子、リグニン合成や重合に必要な酵素の遺伝子の発現とともに、細胞死に関わるタンパク質、核、脂質分解酵素の遺伝子の発現が見られた。また、3つのステージを通じて特徴的な動きをするプロテインキナーゼの遺伝子は、何らかの細胞間連絡に関わっていると考えられる。これらの管状要素形成中に特徴のある遺伝子のうちいくつかはin situ hybridizationを行なったところ、導管に特異的に発現していることが明らかになった。また、特異的な発現が見られるものの、その機能や構造が明らかでないタンパクをコードすると思われる遺伝子も多数存在した。

興味ある方はぜひご参加ください。  土屋 紀之