2005年度 前期 第2・3回 細胞生物学セミナー

日時:426()  16:30

場所:総合研究棟6階  クリエーションスペース

 

Activation of CRABS CLAW in the Nectaries and

 Carpels of Arabidopsis

 

Ji-Young Lee, Stuart F. Baum, John Alvarez, Amita Patel, Daniel H. Chitwood, and John L. Bowman

The Plant Cell, Vol.17, 25-36 (2005)

 

 

Arabidopsisなどのアブラナ科の種は、雄蕊の基部を取り囲むようにリング状の蜜腺が発達する。これまでに、Arabidopsisにおける蜜腺の発達にはCRABS CLAWCRC)と呼ばれる遺伝子が関与することが分かっている。しかし、異所的なCRC発現では蜜腺が形成されないことなどから、CRCの他に花器官の形質を決定するホメオティック遺伝子(一般にABC遺伝子)の関与が示唆されてきた。さらに、CRCは心皮での発現も認められていることから、蜜腺形成は様々な遺伝子が重複してはたらく複雑な経路で調節されていると考えられる。そこで著者らは、CRCと花ホメオティック遺伝子の関係と、蜜腺と心皮におけるCRC機能の解明を目的に以下の実験を行った。

最初にCRCプロモーター内の高度保存領域を特定するため、Arabidopsisと近縁なアブラナ科LepidiumBrassicaCRCオーソログを用いて分析をおこなった。その結果、これら3種のCRC遺伝子の5’上流域に5つの保存領域が発見された。次に、これら5つの保存領域(A,B,C,D,E)のCRCの転写調節機能を明らかにするため、各保存領域の存在によってGUSレポーター遺伝子が働くトランスジェニック植物を作成した。これにより、3つの近縁種間に存在する5つの保存領域は、CRC調節能力があることが示唆された。保存領域C、Eについては、特に蜜腺と心皮におけるCRC発現に重要なはたらきを持つことが分かった。このことから、これら2つの領域がcrc突然変異体における心皮と蜜腺の欠失をどの程度回復することができるのか確認するため、トランスジェニック植物(E:A:LhG4、C:A:LhG4、 E:D:C:B:A:LhG4)を作出、解析をおこなった。その結果、 C:A:LhG4 E:A:LhG4両領域ともに完全に回復する事ことはできなかった。

これらの結果を受け、著者らは蜜腺の形成に関与するとされるLEAFYLFY)とMADS‐box遺伝子が、直接CRC発現を調節している可能性を考えた。そこで、CRCの5‘上流域におけるLFYMADS‐boxプロテインの結合領域の探索をおこない、いくつかのLFY結合領域とMADS‐boxプロテインの結合領域を発見した。これらの領域に突然変異を誘発させたところ、蜜腺形成の初期のCRC発現にはMADS‐boxプロテインの結合が必須であることが分かった。最後に、花ホメオティック遺伝子の多重変異体が示す形質から、MADS‐box遺伝子(SEPSHPAPPIAG)とCRCの関係を調べた。  

以上の実験より、MADS‐boxプロテインが総合的な花形成に関わる因子を供給し、蜜腺と心皮でCRCが発現する際に器官特異的な因子と共同して働くと考えられる。

 

 興味をもたれた方は、是非ご参加ください。         川田 梨恵子