2005年度 前期第4回 細胞生物学セミナー

日時:5月10日(火)17:00~

場所:総合研究棟6F クリエーションルーム

Decision of spindle poles and division plane by double preprophase

bands in a BY-2 cell line expressing GFP-tubulin

Yoneda, A., Akatsuka, M., Hoshino, H., Kumagai, F. and Hasezawa, S. (2005)

Plant Cell Physiol. 46(3):531-538

 

 分裂準備帯(Pre-Prophase Band; PPB)は植物細胞においてG2期から前期にかけてみられる、表層微小管が核を取り囲むように帯状に並んだ構造のことであり、このPPBが形成される位置がその後の細胞質分裂において分裂面が挿入される場所と一致することから、分裂面の決定に重要な役割を担うと考えられている。このPPBは細胞質分裂前にほとんど消えてしまうので、細胞板を親の細胞壁との融合へ導く何らかの"メモリー"が残されると考えられ、この"メモリー"の候補の一つとしてアクチン排除域(Actin-Depleted Zone; ADZ)が示唆されている。ADZとはPPB消失後表層マイクロフィラメント(MF)が分裂予定部位からほぼなくなる領域のことを指す。通常PPBは単一の環状構造として観察されるが、伸長したタバコBY-2細胞をDNA合成阻害剤アフィディコリンを用いて同調培養した際、二つの環状PPB(ダブルPPB)が観察されることが報告されている。また過去の報告よりPPBが前期において紡錘体の極の配置を決定することが示唆されていることから、ダブルPPBを持ったBY-2細胞において紡錘体の極がどのように形成され、その後の細胞質分裂がどのように行われるかという疑問が生じる。

 そこで本研究において筆者らは、BY-2細胞及びGFP(Green Fluorescent Protein)-チューブリン融合タンパク質を恒常的に発現する形質転換株BY-GT16細胞を、共焦点レーザー顕微鏡及び蛍光顕微鏡を用いて経時観察することによって、ダブルPPBが細胞質分裂における紡錘体の形成と方向決定に与える影響を調べた。

 その結果、前期において通常のPPB(シングルPPB)を持つ全ての細胞が正常に二極性の紡錘体を形成するのに対し、ダブルPPBを持つ大部分の細胞が多極性の紡錘体を形成した。これは紡錘体の極の決定にPPBが関係することを強く意味している。しかし中期では両者の細胞が共通して二極性の紡錘体を示すことから、前中期で何らかの矯正メカニズムが存在することが示唆された。前中期から中期にかけて、ダブルPPBの紡錘体は細胞の伸長軸に対して斜めに方向を変え、これらの配向がフラグモプラストにおいて維持され、最終的に斜めの分裂面になった。このとき細胞板はダブルPPBを示す細胞において斜めまたはかなり歪んだ細胞板を示した。他方ダブルPPBを示す細胞をMF重合阻害剤であるビステオネライド A(Bistheonellide A: BA)で処理したとき、典型的

な斜めの細胞板は誘導されず、むしろ歪んだ細胞板を示した。この歪んだ細胞板は、筆者らの過去の研究において、シングルPPBを持つ細胞に対してBA処理した際に現れた細胞板と類似していたことから、ダブルPPBにおいてもMFが分裂面の決定の制御に関与することが示唆された。またダブルPPBを持つ細胞において、ADZがPPBの存在した場所それぞれに形成されるように見えたことから、ダブルPPBの場合においても正しい細胞質分裂に必要な情報がPPBからADZへと運ばれる可能性が示唆された。

 

                                        興味を持たれた方はお気軽にご参加ください。      須田 甚将