2005年度 前期第5回 細胞生物学セミナー

日時:5月17日(火)16:30〜

場所:総合研究棟6F クリエーションルーム

Curvature induced by amyloplast magnetophoresis in

protonemata of the moss Ceratodon purpureus

Oleg A.Kuznetsov, Jochen Schwuchow, Fred D. Sack, and Karl H. Hasenstein

Plant Physiology, 1999, Vol.119, pp.645-651

 

 重力によって作用する力はその対象物の体積と密度に比例する。対象物の周りを取り囲む媒体よりも密度が高いものが落下もしくは沈降するということは言うまでもない。今日の植物生理学分野では、高等植物における重力感受は平衡細胞の内側に存在するデンプンで満たされた高密度のアミロプラストの沈降に依存するという有力な仮説が、アミロプラストの沈降速度が重力刺激を受容する時間と密接に相関していることをはじめ、多くの知見から支持されている。

 本研究において用いられたコケ植物Ceratodon purpureusの原糸体は、野生型(WT)では負の重力屈性によってアミロプラストが沈降し、重力屈性に変異をもつwwrでは正の重力屈性においてもアミロプラストは沈降している。筆者らはこの重力環境を模倣するものとして、強磁場勾配(HGMFs ;high- gradient magetic fields,)によって導かれる粒子のponderomotive forces(動重力とも呼ばれる)を採用した。粒子は磁場によって振動し、その磁場強度が一定でない場合、粒子の振動の軌道に歪みが生じ、単純に振動するだけでなく、正味の移動をする。この時に粒子が感じる力がponderomotive forcesと呼ばれるものである。本研究は、この粒子を平衡細胞内のアミロプラストに置き換えて考えられ、進められた研究である。

 筆者らはHGMFsを作り出すために、異なる3パターンの磁場環境を設定し、実験を行った。

 その結果、3パターンすべてのHGMFs連続処理において、アミロプラストの移動およびそれらに伴ったものと考えられる原糸体の先端屈曲がWT、wwrどちらの遺伝型においても引き起こされ、重力屈性と類似した結果が得られた。このとき、WTの原糸体は強磁場方向へと屈曲し、wwrは強磁場方向から離れる屈曲を示した。そして、それぞれの方向性は異なるが、屈曲角度はwwrの方がやや大きいようであった。

 また、Ceratodon purpureusの原糸体を培養し、単離されたアミロプラストの密度はどちらの遺伝型においても類似した結果が得られたのだが、その直径については、wwrの方がWTよりもわずかに大きなアミロプラストを含んでいた。このわずかな直径の違いがwwrにおけるHGMFsに対するやや大きな反応性に起因しているのかも知れない。

 十分な強度と勾配をもつ磁場機構によって引き起こされたponderomotive forcesによるアミロプラストの沈降とそれに伴う原糸体の屈曲が、重力屈性時でのそれらと類似する結果が得られたということは、ponderomotive forcesが重力の代わりとなり得る材料であることが示唆されただけでなく、多くの植物体の重力を感受する過程において、平衡細胞内のアミロプラストの沈降がいかに重要なセンサーであるかという今までの知見への強力な後押しを与えることも重力屈性を理解する上で非常に有意な結果が得られたと言える。

ご興味を持たれた方はお気軽にご参加ください。   諸橋 恵太