2005年度 前期第8回 細胞生物学セミナー
日時:5月31日(火)16:30~
場所:総合研究棟6F クリエーションルーム
A novel cold-inducible gene from Arabidopsis,
RCI3,encodes a peroxidase that
constitutes a component for stress tolerance
Llorente, F.,
Lo´ pez-Cobollo, RM., Catala´, R. , Martı´nez-Zapater, J , Salinas, J. (2002)
Plant J . 32 : 13–24
植物が分布、発達し生き残るために気温(低温)は最も重要な環境要因の一つである。温帯地域に生育している多くの植物は低温に耐えるために自然に適応機構を発達させている。この適応の中心となっているのが寒冷に対する気候順化の過程である。これは植物が寒冷の中で代謝調節ができるということと、低温の応答として凍結耐性を増加させることによって起こる。またこれらの適応の多くは低温によって遺伝子発現を変化させることによって調節されている。近年その発現を示した多くの遺伝子が単離されているが、その低温順化に関係のあるそれらの遺伝子の重要性は一般によく知られていない。またいくつかの低温誘導性遺伝子は特に低温によって発現されているとはいえ多くの場合は乾燥や塩分ストレス、ABAにも応答し、これらの処理を与えた植物の形態は共通の特徴を持っている。
そこで著者らは新しい低温誘導性発現パターンを示す遺伝子を明らかにするために、シロイヌナズナの低温順化した芽生えから低温誘導性転写産物をサブストラクション法により濃縮しcDNAプローブからcDNAライブラリーのスクリーニングを行った。その結果RCI3が単離された。
さらに著者らはそのRCI3の研究を行った。低温順化した黄化芽生えから抽出したtotalRNAを用いてノーザンブロットハイブリダイゼーションした結果、RCI3はおよそ1.2kbの低温誘導性の転写産物であることが分かった。さらにそのクローンのヌクレオチドのシークエンスを行った結果、トマト由来のTPX1、TPX2と西洋ワサビ由来のHRP-Cと高い相同性を持っていることが分かった。また等電点電気泳動やペルオキシダーゼ活性染色によってRCI3は活性型の陽性ぺルオキシダーゼをコード化していることが証明された。RNA-blot解析により、低温によって誘導されたRCI3の発現は光によって負に制御されることが示され、その時黄化芽生えにおいて、また成熟した個体の場合は根においてのみに発現するということが分かった。乾燥ストレス、塩分ストレスまたはABA処理を行った場合、RCI3の発現は黄化芽生えにおいては誘導されたが、成熟した個体の根においては乾燥によってわずかに誘導されるだけであった。このことから、RCI3の発現は異なる情報伝達系による複雑な制御を受けることが示唆された。細胞レベルでのRCI3の発現部位を調べるためにGUS解析を行った結果、RCI3の発現はシロイヌナズナの成長中に調節されるということと、主に根の内皮で特異的に発現するということが示された。さらにストレス耐性におけるRCI3の役割を調べるために、生重量や形態を指標として遺伝子導入植物体のストレス耐性を調べた。過剰発現させた植物体は乾燥ストレスおよび塩分ストレスに耐性を示し、アンチセンス導入植物体は乾燥および塩分ストレス感受性に表現型を示した。これらの結果から、RCI3が両方のストレス耐性に関与すること、またRCI3を操作することでストレス耐性を改良できる可能性が示唆された。
興味を持たれた方は是非ご参加下さい。 藤城千草