2005年度 前期第12、13回 細胞生物学セミナー
日時:6月14日(火) 16:30~
場所:総合研究棟6F クリエーションルーム
The role of abscisic acid in the response of a specific vacuolar invertase to water stress in the adult maize leaf
Jacques Trouverie、Claudine Thevenot、Jean-Paul Rocher、Bruno Sotta and Jean-Louis Prioul
Journal of Exoerimental Botany,vol.54,(390):2177-2186,September 2003
水分ストレス下では生理的な変化や分子間における変化などさまざまな変化が誘導されることが知られており、気孔が閉鎖することによって生じる光合成率の低下や炭素・炭水化物の代謝レベルでの変化はその一例である。
成熟したトウモロコシの葉を水分ストレス状況下にすると酸性液胞型インベルターゼ活性の上昇が最も早い変化として現れる。また、アブシジン酸(ABA)は多くのストレス反応のシグナル伝達に必要とされている。気孔の閉鎖は主にABAシグナルや直接的/間接的なABA依存性遺伝子によって左右され、ワタやニンジンのインベルターゼ遺伝子のプロモーター領域にあるABA応答ボックスがABA処理によって刺激されるという報告もある。
そこで筆者らはABAとインベルターゼ活性の関係を調べることを目的としてトウモロコシ(Zea mays .L)を用いて実験を行った。水分ストレスを与えた植物体では炭水化物の代謝と液胞型インベルターゼ活性、木部液と葉のABA濃度はコントロールよりもレベルが高かかった。特に、木部液中のABA濃度と葉中の液胞型インベルターゼ活性の間にはr=0.84という相関がみられた。また、水分ストレスを与えた植物体ではスクロース濃度の上昇もみられたが、最終的にはコントロールと同じレベルになり、液胞型インベルターゼとスクロース濃度には関係はみられなかった。さらに、これらの反応は水ポテンシャルやCO2摂取量、浸透ポテンシャルが変化する前に生じた。切断した葉にABAもしくはスクロースを与えた実験ではスクロースを与えたものよりもABAを与えたものでコントロールより30~50%液胞型インベルターゼ活性が高いという結果が得られ、グルコースとフルクトース濃度はABAを与えた葉でもスクロースを与えた葉でも継続的に増加した。ノーザン解析では調べた6つの遺伝子(Ivr1、Ivr2、Incw1、Incw2、Rab17、PEPc)のうちIvr2とRab17だけがABAによって発現が増大するという結果になった。また、スクロースを与えたものでもABAを与えたものとは異なる時間経過ではあるが発現が増大した。
これらのことから、水分ストレス下では葉中の液胞型インベルターゼ活性はABAによって調節されており、液胞型インベルターゼの発現はABAによって増大するということが示唆された。
興味を持たれた方は是非ご来聴ください。 木下久子