2005年度  前期第16、17回  細胞生物学セミナー

日時 : 6月28日(火) 16:30〜

場所 : 総合研究棟6階 クリエーションルーム

CINNAMYL ALCOHOL DEHYDROGENASE-C and -D are 
the primary genes involved in lignin biosynthesis 
in the floral stem of Arabidopsis
Sibout H., Eudes A., Mouille G., Pollet B., Lapierre 
C., Jouanin L., and Séguina A. (2005)
Plant Cell, 10.1105/tpc.105.030767.

 リグニンは細胞壁に含まれる炭素含有率の高い複雑なポリマーである。被子植物のリグニンはp-hydoroxyphenyl (H)、guaiacyl (G)、syringyl (S) と名付けられた3つの主要なユニットから構成されている。 リグニンはモノリグノールの重合によって生じるが、モノリグノールはアミノ化、還元、ヒドロキシル化、メチル化などの諸過程を通じてフェニルアラニンから合成される。そのモノリグノールの生合成の最後のステップにシンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ (CAD) は関与する。CADは シンナミルアルデヒドのシンナミルアルコールへの還元に関与する酵素であり、特にコニフェニルアルデヒドに対して特異的に働く。これまでの研究では、二次細胞壁の構造に対する代謝崩壊の影響を調べるために、CADの変異体および形質転換体が多く用いられてきた。タバコやアルファルファなどの草本からポプラやマツなどの木本に至るまで、様々な植物種において変異体および形質転換体は作成され、CADをコードする遺伝子ファミリーについての研究も広く行われている。モデル植物であるシロイヌナズナにおいては、完全なゲノム配列決定とアノテーションによって、CAD 遺伝子ファミリーについての理解が最も進んでいる。
 本研究では、シロイヌナズナの二重変異体であるcad-c cad-d を用い、まずその表現型について特徴付けを行った。その結果、ボルティングの遅れや早期の老化の進行、乾燥後の花茎の潰れやねじれなどが見られた。またリグニンのGユニットとSユニットを見分けることのできるモイレ染色では二重変異体の花茎および胚軸において染色みられず、またリグニン定量を行った結果、花茎においてリグニン含量は40%減少していた。
 次に、野性型と二重変異体のそれぞれの木部と繊維組織についてフーリエ変換赤外光分析を行った結果、二重変異体において高いアルデヒド含量とG凝縮構造をもったリグニンの減少を示した。またチオアシッドリシスおよびガスクロマトグラフィー/マススペクトロメタリーによる解析からは二重変異体の花茎において、H、G、Sユニットが劇的に減少していることがわかった。
 二重変異体においてトランスクリプトームの発現プロファイルを調べるために、マイクロアレイおよびリアルタイムPCR解析を行った。その結果、CAD のホモログと主に細胞壁に関係する他の遺伝子の転写も二重変異体において変化した。
 最後に、二重変異体にシロイヌナズナ由来のCAD-CCAD-Dと、木本に由来する3つのCADを導入し相補性実験を行ったところ、ほとんどの形質転換体において表現型とG、Sモノマーの割合は回復した。しかし、S:G比とインデンモノマーの割合については形質転換体の間で等しく回復しなかった。

興味をもたれた方は是非ご参加ください。来聴を歓迎します。  玉置 大介