2005年度前期 第20、21回 細胞生物学セミナー
日時:7月26日(火)16:30〜 場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
Comparative genomics in salt tolerance
between Arabidopsis and
Arabidopsis-related Halophyte Salt cress
using Arabidopsis microarray
Taji, T., Seki, M., Satou, M., Sakurai,
T., Kobayashi,M., Ishiyama, K., Narusaki, Y.,
Narusaki, M., Zhu, J. K., Shinozaki, K.(2004)
P l a n t P h y s i o l .135, 1697- 1709
塩生植物である Salt cress (Thellungiella halophila) は、500mM の濃度の NaCl培地でも生育可能な塩生植物である。塩腺はなく、塩分適応前後で形態的な変化は見られないことより、Salt
cressの耐塩性は非塩生植物の調節法に似たメカニズムに由来していると考えられている。Salt Cressはシロイヌナズナの近縁種であり、植物体が小さい・生活環が短い・得られる種子数が多い・ゲノムサイズが小さい・効率的に形質転換を行うといった遺伝的なモデル植物としての特徴を持っている。またシロイヌナズナとのcDNA配列が90-95%一致していることがわかっている。
この実験では、塩生植物であるSalt cressと非塩生植物であるシロイヌナズナにおける塩耐性制御の違いを明らかにするために、シロイヌナズナ全長cDNAマイクロアレイを用いてSalt
cressの遺伝子発現プロファイル解析を行った。
その結果、250mM NaCl培地条件において誘導された遺伝子は、シロイヌナズナでは40遺伝子あったにもかかわらず、Salt cressでは6遺伝子だけが塩分ストレスによって非常に強く誘導されていた。浸透圧調節物質であるラフィノースおよびラフィノース属オリゴ糖の生合成に関与する、ガラクチノール合成遺伝子(AtGolS2)とミオシトール一リン酸合成遺伝子(INPS)の発現が上昇していたことから、Salt
cressはそれら浸透圧調整物質を植物体内に蓄積させることで耐塩性を強化している可能性が示唆された。
また通常状態(塩分ストレスがない状態)で、非常にたくさんのシロイヌナズナで知られている生物的ストレス(乾燥、低温、塩分、ABA処理)および非生物的ストレス(病原菌、SA、JA、ET、活性酸素、UV処理)で誘導される遺伝子;Fe-SOD、P5CS、PDF1,2、AtNCED、P-protein、β-gulcosidase、SOS1が高レベルで発現していた。
プロリン合成の鍵となる酵素AtP5CSの高い発現は、Salt cressの様々な器官において、浸透圧調節にはたらく適合溶質プロリンが蓄積しているという事実を裏付けしており、Salt
cressの非常に高いストレス耐性は、通常状態でプロリンを過剰蓄積しているためであると考えられた。また葉緑体における活性酸素消去系として知られているスーパーオキシドジスムターゼ
(SOD)遺伝子の発現が高かったことより、Salt cressは塩分ストレスだけではなく酸化ストレスに対しても耐性があることが示唆された。
Salt cressの耐塩性は、塩分ストレス耐性の際に機能する遺伝子と様々なストレスにより誘導されるこれらいくつもの遺伝子が塩分ストレスがない状態でも過剰発現しているためであることが示唆された。
ご来聴を歓迎します。 山影 茜