2005年度後期 第5、6回細胞生物学セミナー

日時:11月25日(火)16:30〜

場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム

The chemical composition of suberin in apoplastic barriers affects radial hydraulic conductivity differently in the roots of rice (Oryza sativa L. cv. IR64) and corn (Zea mays L. cv. Helix)

Schreiber,L., Franke,R., Hartmann,K., Ranathunge,K., and Steudle,E., (2005)

J. Exp. Bot. 56 : 1427-1436

根における水の伝導性は植物の種間で大きく異なり、さらに形態的・組織構造的変化は、外的環境に大きく影響される。土壌から根の中心柱への水の吸い上げ経路のモデルには(1)プロトプラストの周りを通るアポプラスト経路(2)プラズモデスムを通るシンプラスト経路(3)2つの隣り合う細胞の隣接する原形質膜とその間のアポプラスト部分を通って、細胞からその隣の細胞へと水分子が輸送される細胞間輸送経路の3つがある。アポプラスト経路の水の伝導性は、スベリンラメラの沈着により制御される。初生の根の内皮におけるスベリンの沈着は、カスパリー線が形成される時に起こり、形成されたカスパリー線はアポプラストバリアとして水の伝導性を制御する。さらに、スベリンの中でも脂肪族スベリンは、リグニンや芳香族スベリンよりも生体高分子のバリア機能の影響が強いとされている。そのため、この研究では、イネとトウモロコシの根のアポプラストバリアを単離し、ガスクロマトグラフィーと質量分析を行い、脂肪族スベリンと芳香族スベリンの単量体を量的、質的に分析し、水伝導性への影響を調べた。

 その結果、イネとトウモロコシの脂肪族スベリンの性質は異なっていた。質的分析により調べた結果、イネの脂肪族スベリンはトウモロコシのものよりも多様性が乏しかった。定量分析により調べた結果、イネの芳香族スベリン含量はトウモロコシの平均の50-80倍であった。イネの外皮は、トウモロコシの平均6倍の脂肪族スベリンを含み、イネの内皮細胞層は、トウモロコシの平均34倍の脂肪族スベリンを含んでいた。この結果は、イネとトウモロコシの根のアポプラストバリアの水伝導性を比較した時、イネの根の水伝導性が低い事と一致していた。しかし、イネの根の外側の部分は、水に対して高い多孔性と透過性を示した。以上の事を考え合わせると、水輸送のバリアとしてスベリンの機能を研究するためには、単にスベリンの含量について考えるだけではなく、スベリンの化学的性質と沈着物の微細構造を明確にし、どのようにして、スベリンが細胞壁の小孔に沈着するかを研究する必要がある。

              興味を持たれた方は、是非ご来聴下さい   岩坪宏美