2005年度前期 第5,6回 細胞生物学セミナー
日時:10月25日(火)16:30〜
場所:総合研究棟6階 クリエーションルーム
Phosphate starvation induces a
determinate developmental program
in the roots of Arabidopsis
thaliana
Sanchez-Calderon, L ., Lopez-Bucio, J.,
Chacon-Lopez, A., Cruz-Ramirez, A.,
Nieto-Jacobo, F., G. Dubrovsky,J and Herrera-Estrella, L (2005)
Plant Cell
Physiol .46(1), 174- 184
植物の根系は多くの不可欠な適応機能ー水分・栄養分の取り込み、植物体の支持、根圏における生物相互作用の確立ーを担っている。それゆえ、根系の構造変化は植物の水分・養分の取り込みに大きな影響を及ぼすと考えられる。
根系全体の構造に影響を及ぼすプロセスとして、(1)主根(初生根)生長を決定する主根先端での細胞分裂および細胞伸長速度、(2)根系の予備能力を高める側根の形成、(3)主根と側根の根系全体の表面積を上げるための根毛形成の3つがあり、土壌栄養源の時間的・空間的な多様性は根系の生長および構造に大きな影響を与えると考えられる。
これまでに土壌中の栄養源であるリン酸(P)の欠乏によって、トマト(Lycioersucum esculentum L.)やシロハウチワマメ(Lupinus albus
L.)で、“有限生長”という分裂細胞が限定された期間だけ分裂・分化を行う特殊な発達過程が報告されている。
本研究では、リン酸欠乏によって引き起こされる根の生長阻害に応答する細胞内プロセスを分子レベルで解明するためにモデル植物でるシロイヌナズナを用いた。
低リン酸および高リン酸を含む寒天培地で生育させたシロイヌナズナ芽生えは、低リン酸条件下で根の構造に劇的な変化
ー主根長の減少、側根の形成促進、顕著な根毛形成ー が生じた。
主根は8日目以降伸長が見られず、低リン酸条件によって無限発達プログラムから有限発達プログラムへと変換したと考えられる。主根長が短くなる要因として、細胞サイズの減少・細胞分裂の低下あるいはこれらの複合要因のためであるのかを探るため、根の初期段階での動的な解析を行った。主根の末端における表皮細胞数、細胞長を計測し、有糸分裂の活性パターンを調べるために細胞周期マーカーとしてCycB1;1:uidAを用いて発現パターンを分析した。その結果低リン酸条件下では、10日芽生えの表皮細胞長は高リン酸条件下のものと比較して細胞長が70%短くなっていた。またGUS発現より、根端での分裂領域の範囲は徐々に短くなっていき、12日目には有糸分裂活性は全く検出されなかった。低リン酸条件下で誘導される有限発達プログラムは分裂組織細胞の連続的な減少に続き細胞伸長の低下を引き起こすことが明らかになった。
また根における細胞分裂が維持されない要因として、幹細胞の分裂能の損失・幹細胞娘細胞が未成熟なまま分化を行うため、静止中心活性の欠如が考えられた。そこで静止中心(QC)同定マーカーとしてQC46:GUSの発現を調べたところ11日目にはGUS発現はみられなかった。
さらに低リン酸(P)条件下での有限生長は、主根だけではなくすべての生長を終えた側根でも観察された。
これらの結果より、リン酸の制限は根系の構造変化に重要な役割を果たす根の有限生長プログラムを誘導しており、また静止中心がこのプログラムの環境シグナルのセンサーとして作用しているいることを示唆している。
興味を持たれた方は是非ご来聴ください 山影 茜