2005年度 後期第7・8・9回 細胞生物学セミナー
日時:11月1日(火)16:00~
場所:総合研究棟6F クリエーションルーム
Clathrin is required for
the function of the mitotic spindle
Royle, S. J., Bright, N. A. &
Lagnado, L. (2005)
Nature 434:1152-1157
細胞内で起こっている小胞輸送という生命活動は、生体膜や種々のタンパク質を細胞内で輸送することによって、細胞の様々な生化学的プロセスを進行させるという極めて重要な役割を担っている。この小胞輸送という現象は、多様な輸送形態を持っており、その一つに小胞の産生に確立した機能を持つ”クラスリン”と呼ばれる膜コートタンパクを介した小胞輸送がある。これまでにクラスリン被覆小胞の形成は、分裂していない細胞において絶えず起こっているが、有糸分裂中はまったく起こらなくなり、クラスリンが紡錘体に凝集することが報告されている。しかし、これが何を意味するのか、そしてどのようなメカニズムで起こるのかについてはよく分かっていない。
そこで本研究において筆者らは、正常ラット腎臓(Normaly Rat
Kidney: NRK)細胞株およびヒト胚性腎臓(Human Embryonic Kidney:
HEK)細胞株の培養細胞を用いて、クラスリンと有糸分裂装置との空間的・構造的な関係、そして有糸分裂という現象における両者の機能的な関係について詳細に解析した。
まず筆者らはクラスリンの細胞内における正確な局在を、クラスリン軽鎖の形質転換体、クラスリン重鎖(Clathrin Heavy Chain: CHC)特異的なモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学法、免疫電顕法といった種々の方法を用いて観察した。その結果クラスリンが中期細胞において有糸分裂紡錘体の動原体繊維に結合し、正確には微小管、もしくは微小管結合タンパク質に結合することが示された。さらに、微小管と結合するクラスリン領域が、RNA干渉によるCHCノックダウン細胞株を用いた解析からCHCに含まれていること、そしてCHCのGFP標識断片を発現させた細胞を用いることで、クラスリンのトリスケリオン(三脚巴構造)がCHCのN末端ドメインを介して有糸分裂装置に結合することが明らかとなった。
続いて、クラスリン-微小管の機能的な関係を知るために、RNA干渉によるCHCノックダウンが有糸分裂に与える影響について解析したところ、有糸分裂にかかる時間が延長された。さらに有糸分裂各ステージでの細胞の割合や、動原体繊維の張力を測定するといった定量的な解析から、クラスリンが染色体の配向を制御することが示された。すなわち、動原体繊維が不安定化し、その結果、中期細胞板や紡錘体チェックポイントの持続的な活動のために必要となる染色体の正常な配向が不完全になることによって、有糸分裂が延長することが分かった。
さらに、クラスリンが動原体繊維の安定性に与える影響について解析するために、クラスリントリスケリオンまたはN末端ドメインが内因性クラスリン欠如細胞における有糸分裂の欠陥を回復するかどうかを検証した。その結果、トリスケリオン存在下では正常な有糸分裂が回復する一方、N末端ドメインだけでは回復しないことから、動原体繊維の安定化がクラスリン特有の斜方晶系の構造(トリスケリオン)に依存していることが示された。
過去クラスリンの働きに関して、膜やタンパク質輸送における働きは徹底的に研究されてきた。本研究で筆者らは、クラスリンが有糸分裂中に有糸分裂紡錘体の動原体繊維を安定化するというもう一つの重要な働きを示した。
興味を持たれた方は奮ってご参加下さい。 須田 甚将